考え方

子どもを殺す母親の話

大阪二児餓死事件。

母親である早苗さんは、 3歳と1歳9か月のわが子を餓死させ、殺人罪で逮捕された。

 

彼女は、大阪ミナミの繁華街で働く風俗嬢だった。

 

ある日、子どもたちの傍らに僅かな食べ物を残し、寮だった単身者用マンションのドアをガムテープで出られないように固定し、家を出た。

そのまま、50日余り帰らなかった。

 

部屋の異臭から発覚したこの事件。警察が訪れた時、大量のゴミに埋もれた部屋の中で、子どもたちはすでに一部白骨化していた。

冷蔵庫には、飲み物や食べ物を求めた、小さな手の跡が残されていた。

 

3歳のお姉ちゃんは大便や尿も食べ、ゴミをあさり、幼い弟に与えていた形跡もあった。

最後には、お腹を壊し、下痢をして、それも食べた。猛暑だった。

 

早苗さんは逮捕されるまで、近くのホテルで男性と過ごし、出身地の四日市や大阪市内で遊び回り、オシャレに気を配り、その様子をSNSに写真や文章で投稿していた。

メディアでは、風俗嬢のドレスを着たパネル写真も流れた。遊びはしゃぐ母親と、猛暑のなかで餓死する子ども。その対比は群衆を興奮させた。

 

だけど早苗さんが子どもを殺したのは、風俗嬢だったからでも、おしゃれをしていたからでもない。

子どもの父親は音信不通になり、両親との仲は悪い。借金が返せず、子どもと一緒に夜逃げしている。

 

事件前、早苗さんは2歳8か月になった桜子ちゃんの手を引き、1歳3か月の楓ちゃんをベビーカーに乗せて、大きな荷物を持って、大阪ミナミの老舗風俗店に面接に行っている。

桜子ちゃんは笑顔で早苗さんに甘え、楓ちゃんはぷくぷく太っていた。「子どもたちのために学資保険に入りたい」という理由だった。

 

子どもを預けたいと話すその子を見ながら、

誰も彼女に手を差し伸べなければ、彼女の強くまっすぐな「娘を守ろうとする目」は、早苗さんと同じように、いつか消えてしまうかもしれない、と、思った。

 

虐待は、許せない行為である。

どんな理由も、どんな状況も、小さな子どもの命を奪って良い正当な理由にはならない。

 

だけど、だからこそ、今「母親」が置かれている状況を理解し、周囲が手を差し伸べる必要がある。

 

本当に子どもを守るために私達がすべきことは、「母親像」を押し付けて逃場をなくし、世の中の母親を追い込むことではなく、

母親たちが「辛い」と思った時に、育児を休む瞬間を与えることを、許すことではないだろうか。

 

理解をしめし、頼れる場所を作ることではないだろうか。

 

私の友人、心愛ちゃんの母親、そして早苗さん。

彼女達は、別世界に暮らす、異常な人たちではない。

 

私たちのすぐ隣の町、すぐ隣の部屋、すぐそこにいる人たちだ。

そしてもちろん、私達や私たちの大切な人たちが、同じような道を辿ってしまう可能性は、0ではない。

 

だから私は、「虐待事件」を他人事だと思って蔑んでいるあなたにも、もう一度だけ立ち止まって、考えてみてほしい、と思って、この記事を書いている。

子どもたちの命は、どうすれば失われなかったのか。

 

どうしてその母親は、追い込まれたのか。

 

一番悲しいのは、彼女達がいくら反省しても、罪を償っても、許されても、世間が変わっても。

奪った子供達の命は、永遠に蘇らないということだ。

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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