考え方

「借金で死ぬなら夜逃げしろ」今まであまり語らなかった事について

この記事は、今まで私がどうしても書きたかった「借金」と、「夜逃げ」「債務整理」についての内容です。

今までその辺りについて詳しく触れてきたことはなかったけれど、私の経験によって救われる人は、絶対に多いと思う。

 

長くなりそうだからどうしても伝えたいことを先に伝えておくと、

借金なんてまじでどうにでもなるから、そんなことで死のうなんて考えるな」、って話。

 

きっと普通の生活ってのを送っている人にとってこの話は他人事で、「バカなやつだな」って、呆れさえすると思う。

だけど、今様々な困難がはびこるこの世の中で、一歩間違えれば、誰もが私のように借金にまみれてトイレットペーパーも買えず、おしっこを拭くための紙をポストから探すハメになるかもしれない。

 

今借金に悩んでいる人も、今は悩んでない人も、読んでほしい。

そしてもしも「今どうしたら良いか分からない」って苦しいのなら、ここに書いてある弁護士さん達に問い合わせてみてほしい。

 

私は自分で弁護士事務所に行くこともなく全部電話で解決させたから、コロナ騒動で外に出られない今、借金を整理する良い機会だと思う。

 

弁護士さんに頼んで受理されればその瞬間から取り立てがなくなる。弁護士費用も分割でいい。

珍しくがっつりと広告も入ってるし、恥ずかしいこともたくさん書いてあるけれど、心の底から伝えたいことだから、どうか暇つぶしにでも読んでみてください。

 

ある日家に帰ったら、見知らぬ名刺が...

人間にとって一番恐ろしいのは、想定していない場所に、思いもよらないものが存在する。

という状況だと思う。

 

私にとってそれは、ある日家に帰ったら、リビングのダイニングデスクの上に、取り立て屋の名刺が置いてあるのを見た瞬間だった。

 

私がいない間に、誰かが家の中に入った。

 

その恐ろしさは、とても言葉では言い表せない。

 

その日の夕方、電気が止められた。

突然直ピンポン(エントランスのオートロック先ではなく、部屋の玄関のチャイム)が何度も鳴らされた後、玄関の前でガサゴソという音がするのは大抵、電気が止められる合図だ。

 

「待ってください」と外に出たいけれど、私の財布の中には、電気代を支払えるだけのお金がなかった。

それでも念のため、と、財布をひっくり返して出て来たのは、500円。

 

薄い板を挟んだ向こうで、誰かが光の根を立つ音がする。

息を潜めてその音に耳をかたむけている間はまるで、爆弾処理を見守っている時のようだった。

 

飼っている犬を抱きしめる。

何かの気配に怯えた様子の犬は、私の腕の中でカタカタと震えていた。

 

数分も経たず、ヒューユユン、という間抜けな音とともに、部屋の電気が消える。

エアコンがピっと音をたてて窓をゆっくり閉じていき、扇風機のファンがカラカラと速度を落としていった。

ひととおり、部屋が亡骸に変わるのを待った後、そこに残ったのは 、静寂と暗闇のみだった。

 

ドアの郵便受けからカタンという音がして、わずかな光と共に、黄色い封筒が差し込まれる。

爆弾の処理をし終えた人が、廊下を去っていく音を聞いてから、私はようやく腕の力を緩め、どんよりした気持ちで、部屋を見渡した。

冷蔵庫やエアコン、空気清浄機。

私はいつも、微細な音のかたまりに包まれていたのだと知る。

 

電気が切れたその部屋には、今まで感じたことのない「静寂」が広がっていた。

「日当たりなんてどうでも良い」と選んだこの部屋は、窓の前に大きなマンションが建っていて、恐ろしいほどに日の光が入らない。

 

作られた光を失った私はその日はじめて、自然光の入らないこの部屋を選んだことを後悔した。

はあ、はあ。という、犬の息遣いだけが耳に届いて、より一層私を不安にさせる。

 

どうにかしないと、死んでしまう

ガスが止まった時も、水道が止まりかけた時も楽観的だった私が

初めて「死」を意識した。

 

「電気」が消えるというのは、こうも人の心をえぐるものなのか、と妙に感心したのを覚えている。

ただ暗闇にいるだけなのに、社会から完全に孤立したような気持ちになるのだ。

 

それに加えて運悪く、その日は、夏だった。

外ではセミが鳴いている。

 

まだエアコンの冷気が残っているけれど、少し経てばこの部屋も蒸し暑くなる。

冷蔵庫の中身が常温に変われば氷もなくなり、体を冷やすものもなくなるだろう。

 

私は急いで冷凍庫から氷を取り出して、台所においてある犬の餌用皿に並べたあと、

犬に差し出した。

 

緊張か、既に暑さを感じているのか、犬は荒い息を整えながら、おそるおそる氷を舐めはじめる。

少しずつ暗闇に慣れて来た目で、かろうじて犬の不安そうな表情をとらえた。

 

もしもこのまま部屋が暑くなってしまったら……。と想像した。

私は良くたって、犬にとっては地獄だ。

 

自分なんてどうでも良い。

自分が守らなければ死んでしまう生き物が不安そうにしているのが、一番キツい。

 

私は真っ暗な部屋で飼っている犬を抱きしめ、「ごめんね」と言いながら泣いた。

 

きっかけは母親。借金はある日突然に...

私には、600万円の借金があった。

理由は何度も説明してきたので省くが、その借金の先のほとんどは真っ当な消費者金融(楽天、すがる銀行、アコム、レイク、マルイ等)で、闇金といったものが含まれないのが救いだった。

 

毎週月曜日から金曜日の、朝9時から夜8時、規則正しく私の携帯電話は鳴り続ける。

 

電話に出るのが怖くて無視をするようになってからずいぶん時間が経っているけれど、

電話の回数が増えることを除いて、その時はまだ、日常を脅かされることはなかった。

 

随分前に法規制されたせいか、消費者金融の取り立ては、借りている側優位になったのだ。

部屋に訪問してきたり職場におしかけたりなんてしないし、あることと言えば、決まった時間に数回、電話が鳴るだけだった。

 

どうしてこんなことになるまで放っておいたのか

脱税が発覚したチュートリアルの徳井さんの一件で、多くの人がつぶやいていた言葉である。

 

その言葉は真っ当で、明らかに正しい。

だけど「転落」のスタート地点は、あなたたちが送っているのと変わらない、日常だ。

 

それはいつのまにか、少しずつ、始まるのだ。

気づかないうちに、ほんの少しずつの選択を誤って、はっと気づいた頃には、もう崖の上。

あとは背中を押されれば、まっさかさま、ってな具合に。

 

もちろん私のこの借金にも、いわゆる「火車」になった過程が存在した。

借金を作るのはすごく簡単で、なぜなら当初私は「正しい人生」を送っていたからだ。

 

看護師で年収も人並みにあり、お金を借りる魔法のカードを作るのに、手間はかからない。

母親の借金を返すためのお金を借り、それでも足りないと、またカードを作った。

 

キャッシング枠がなくなると、生活費をカードでまかない、看護師の給料の方を返済にあてるようになった。

 

すぐに返し終わる、はずだったのだ。

だけど不思議なことに、その借金は、返しても返しても減らなかった。

 

その当時美容外科に勤めていた私は先輩や同僚に、食事会や美容サロン、旅行等の贅沢な遊びに誘われる機会が多かった。

 

美容外科は看護師の中でも月給が良いので、どの仲間もみんな、美容や娯楽にお金を惜しまなかったのだ。

同じ職場で働き、同じ額の給料を同じ給料日にもらっている仲間に誘われて「お金がない」とは言えなかった。

 

私は平気な顔をしてその誘いに乗り、1万円以上するランチを食べてはカードを使い、

同僚とおそろいの3万円のワンピースを買うのに、カードを使った。

 

そう、私は「母の借金返済に」と作ったカードを、自分の遊びにもあてるようになっていたのだ。

 

その時住んでいたのは東京23区内、駅から徒歩4分の高級マンション。

1Kでめちゃくちゃに狭いのに、毎月10万円以上の家賃を支払っていた。

 

それでいて私は犬を飼っているため空調に気を使うので、光熱費も他の人以上にかかる。

毎月の出費は、そのへんの20代の同世代より、はるかに多い。

 

だけどそれは、私にとって何も特別なことではなかった。

 

だって私と同額の給料をもらう仕事先の同期も、みんな同じような部屋に住み、同じように生活していたから。

毎月のヘアサロン、マツエク、エステ、ネイル。ランチ、誕生日会、バス旅行……。

彼女たちはむしろ私よりももっと豪華な生活をしていたし、それらを惜しみなく共有していた。

 

辞められなかった。

どれかを諦めたら、一緒に笑えなくなる、と思っていた。

 

だけど、同じような生活をしていても、周囲の仲間と私の状況は、全く違う。

私にはそれにプラスして、毎月20万ほどの借金返済があったからだ。

 

気づけば支払いが滞りがちになり、私のカードの限度額も、いっぱいになりはじめた。

借金返済ができなくなり、電話による取立てがはじまる。

 

「来月末まで待ってください」

 

焦った私は、副業として、風俗に復帰した。

 

風俗をはじめると、看護師としての生活に支障が出てくる。

その当時オペ室で働いていた私は、寝不足の状態で人の命を預かることに罪悪感と不安があった。

 

しばらく両立したのち、看護師として時給数千円で働いている時間がもったいないと感じるようになってしまい、「借金が返済し終わるまで」と言い聞かせながら、私はついに、風俗一本で生活することを選んだ。

 

その頃の私は若かったし、いわゆる大衆店にいけば、簡単に体を買われるだけの需要があったのだ。

 

いろいろな店を転々とした結果、ひっきりなしにお客がやってくる比較的安いお店に落ち着く。

1日8人を相手にして10万円を稼げる店へ在籍し、朝から晩までセックスをして、稼いだお金を、返済や生活費に当てていた。

 

「このままいけば、借金なんて簡単に返せる。

たくさん出勤して、さっさと返そう。」

 

無駄遣いは辞めて、お金を稼ぐことだけに時間を使う日々を過ごす。

 

…だけど、あの世界はそんなに甘くはなかった。

 

恐れていたことが起きた。

「好きな人」ができてしまったのだ。

 

今思えばそれが、本当の転落はじまりであった。

今まで気にしないようにしていた体を売るという行為が、突然に苦痛となった。

 

今までは何日も出勤できていたのに、月に数回しか出勤できない。

勿論その相手には風俗嬢であることも隠していたから、嘘をつくことへの激しい罪悪感もつきまとう。

 

出勤したあとは落ち込んで、何シートも睡眠薬を飲んだり、自分の腕に噛み付く、熱湯をかけるなどの自傷行為までするようになった。

 

「自業自得」だというのは、自分が一番よくわかっていた。

きっかけは母親だったかもしれない。

だけどそこから先の選択は、すべて自分である。

 

私は、面倒臭かったのだ。

何もかもが面倒臭くて、考えることを辞め、蓋をした。

 

そしてそのツケが、後から遅れてやってきた。

出勤がままならない状態になってからは、稼げる金額が大幅に減り、衣食住を確保することすらままならなくなった。

家賃の低いマンションに引っ越すことも考えたが、風俗一本で働いていたその当時、賃貸物件を契約するのは不可能に等しかった。

そうして最終的に借金の返済にまで、お金をまわすことが難しくなっていったことを覚えている。

 

そしてこともあろうことか、そのストレスの矛先は、「お金を使う」ことに向くようになる。

今思えばホストやギャンブル、ブランド物に興味がなかったのがギリギリの救いだったかもしれない。

 

お金を使う先のない私は、睡眠薬を飲んで記憶のないまま、コンビニでお金を使うようになった。

出勤後、家に帰る途中にフラフラとコンビニに行き、読みもしない棚にある雑誌を買いあさって、スイーツを端から端まで買い尽くし、食べもせずに腐らせる。

 

目的なんてなかったと思う。

だけど毎日同じコンビニで、数万円ずつをドブに捨てるように使った。

 

募金箱に稼いだお金を全部つっこんで、家に帰ってから我に帰り、泣いたこともある。

 

そんな状況の中でも、借金返済は終わらない。

それどころか返し始めた当初より、大きく膨らんでいる。

 

母親の負債と自分の負債がかさなって、身動きがとれなくなっていった。

返しても返しても減らない利息にうんざりして、そしていつしか、借金返済を無視するようになる。

 

出勤したくなかった。

好きでもない人とセックスをしたくなかった。

 

だけど看護師に戻る自信も、今更なかったのが事実。

 

体を売るためには、綺麗な下着がいる。

体を売るためには、汚い髪の毛ではいられない。

体を売るためには…。

 

お金を稼ぐためにも、お金が必要だった。

今思えば、本末転倒だ。

 

そんな日々が続くうちに気力を失い、睡眠薬漬けになった私は、

「せめて家賃と光熱費と食費と……犬のお金だけは稼ごう」と思うようになっていた。

 

もうその頃には、生きていくことだけで必死だった。

 

これを転落人生と呼ばずになんと呼ぼうか。

キラキラと輝く看護師時代の私はどこへやら。私はほとんど廃人になっていた。

 

最低限の生活。月に20万円程度あればどうにかなる。

そして風俗嬢である私にとって、それは、3日働けば確実に手に入るお金だった。

 

「今月はまだ働かなくても良い。月末までに3日だけ出勤すれば良い」

毎日出勤しようとして、だけどどうしても行きたくなくて、言い訳を使って休んで、ひたすら家で薬を飲んで、寝た。

 

 後回しに、後回しにして、私は家で、ひたすら引きこもった。

だけどそんな私に、バチがあたることになる。

 

働きたくても働けない状況へ!家賃が支払えなくなった

いよいよお金の底がつきて、家賃や光熱費の支払日に近づいた頃。

 

「さて、食べ物も底をついたし、財布には500円程度しかないし、明日には電気も止まるし、働こう」と、重たい腰を上げたその瞬間、私のアソコに、激しい痛みが走った。

性器ヘルペスだった。

 

性器に火傷のようなできものができて、歩けないほどの痛みを伴う。

例えるなら、火傷に塩を擦り込んで、更にライターであぶるような痛みだった。

 

排尿する際に冷や汗が吹き出て吐いてしまうほどの痛みをともなったので、

風呂場に行き、タオルを噛み、アソコに水を当てながら排尿した。

 

歩けない。トイレにも行けない。

 

心当たりはあった。

数日前の客に、やたらと性器をこすりつけてくる奴がいたのだ。

私は働いていた店に連絡して迎えに来てもらい、そのまま店が提携している産婦人科に運ばれた。

 

たいした食べ物も食べずに生活していたせいで免疫力が落ちていたのか、

ヘルペスは私の体中を蝕んで、口、乳首、性器…と、いたるところに広がりはじめていた。

 

点滴を受けた帰り際、担当してくれた医師に「いつから出勤できますか?」と聞くと、

「ここまでひどくなるケースは稀だし、下手したら入院が必要なレベルだよ。しばらく安静にしていて」と、呆れられた。

 

帰り道、黒服に支えられながら歩く私を、お腹の大きな女性たちが、嫌な顔で見て、そして、サッと目をそらした。

「人生終わったな」と、はっきり思った。

 

私、あなたたちを看護する側の人間だったんだけどなあ。

 

その日暮らしの私にとって、そのタイミングで出勤停止を食らうのは、最悪のシナリオだった。

お金を稼がないと、明日電気が止まるのに……家賃を払わなくちゃいけないのに……。

 

そんな気持ちとは裏腹に、体中がヒリヒリジリジリと痛む私は、症状が治まってからも含めて、結局一ヶ月以上の出勤停止をくらった。

このタイミングで、である。

 

人生、うまくいかない時はとことんうまくいかない。

 

それをきっかけとして、今までどうにかなっていた支払いのリズムが、完全に崩れた。

どれだけ切羽詰まっても「これだけは」と、遅れずに支払っていた家賃の当月分を払えなくなったのだ。

 

その当時、借りていた部屋の管理人が定めた保証会社に加入していたため、私が払えなかった家賃は、保証会社が立て替えて支払うことになる。

そして、この「家賃保証会社」こそが、消費者金融よりも恐ろしい取り立てをすることで有名な、所謂「追い出し屋」だった。

 

覚えておいてほしい。

法律で守られている限り、私たちは危険な目にはあわない。

法律を守ってくれる相手なら、交渉に応じてくれる。

 

銀行、消費者金融、なんかがそうだ。

 

だけど、そうじゃない相手。

そうじゃない相手が敵になってしまった時、私たちは突然危険にさらされる。

そこには法律がなく、「実力行使」をともなうのだ。

 

そしてその相手というのが、闇金や家賃保証会社である。

 

まったく甘くない、家賃保証会社

家賃の支払いが遅れて数日後、ある朝起きて携帯を見ると、見覚えのない番号から10件の着信履歴が入っていた。

グーグルで検索すると、加入している家賃保証会社であることが分かった。

 

その当時の私は、家賃滞納を甘く見ていた。

というのも、それ以前に住んでいた物件では保証会社ではなく保証人をつけていたのに加えて、滞納なんてしたことがなかった。また、一度振込を忘れた時も一通手紙が来ただけで、翌月に二ヶ月分が引き落としされ、とくになんの問題も起こらなかったことを覚えていたからだ。

 

「そういえば電話してなかった」

 私は家賃が遅れる旨を伝えていなかったことを思い出し、 軽い気持ちで電話を折り返した。

 

数ヶ月滞納しているならまだしも、たった数日の滞納だ。

二週間後に払うと事情を説明すれば、分かってくれるだろう、と思っていた。

 

しかし、1コールもたたないで電話に出たのは、あからさまにガラの悪い中年男性で、今まで礼儀正しい消費者金融の電話対応に慣れていた私は、その時点で怯んでしまった。

 

「困るんですよねえ。何回も電話してるのに一発で出てくれないと」

平謝りしていると、電話口の男は、こう言った。

 

「それからねえ、柚木さん。登録してたお勤め先、今日伺ったんですけど、辞めたそうじゃないですか。本当にそこで働いてたの?」

その保証会社に登録したのは、まだ私が看護師をしていた時代だった。

 

彼らは家賃滞納をして約3日後、振込がないと気づいたその日に、私の元職場にまで押しかけたことになる。

確かに支払いが遅れているのは私の責任だ。そうだとは言え、スピード感がおかしいと思った。

 

私は職場が変わった旨を伝え、くわえて風俗で働いていることも打ち明けた。

自身の体の状態を説明したうえで、家賃を二週間後まで待ってほしい、と交渉をする。

 

「いや、待ってって言われても待てないよ。何回も電話した手間賃といっしょに、今日中に振り込んでもらえますか?」

「家族、実家にいるよね?頼めるでしょ?友達は?家族にも電報送ったから」「今日中に払えないのなら、こちらもそれ相応の対応させてもらいますから」

 

いくら謝っても、いくら説明しても、無駄だった。

巻き舌の相手の口調に、怖くて押し黙ってしまう。

 

そんなことを言われたって、手元にお金なんてないし、助けてくれる人なんて、いないのに。

 

だけど、思えば、自業自得である。

登録していた職場は前の職場だったし、その日暮らしの風俗嬢を自分の物件に入れておきたいオーナーはいない。

 

だからこそ相手も、早い段階で本気を出した。

「家賃保証会社」としてではなく、「追い出し屋」としての本気だ。

 

とにもかくにも、そこから夜中の2時半まで、「振り込みましたか?」の電話が鳴り止むことはなく、私は払える見込みのないお金に切羽詰まり、

分かってくれないのであれば、お金が用意できるまで無視をするしかない。と、電話に出るのを辞めた。

 

その数時間後、家のチャイムが鳴った。

自宅は2重オートロックであったため、一階のエントランスからだ。

 

インターホンのモニターを見ると、作業着のようなものを来た男がうつっている。

「保証会社だ」と、ピンと来た。

 

怖くなった私は犬を抱きしめ、モニターを見つめたまま、応答しなかった。

しかし次の瞬間、別の住民がオートロックを解除して中に入るのに便乗し、ドアを突破する男の姿がうつりこんだ。

 

「来る」と思うと怖くて、私はあわてて部屋の鍵と内鍵を確認するために玄関に走り、

それらがロックされているのを見ると、犬を抱きしめたまま、廊下にへなへなと座り込んだ。

 

数秒後、直ピンポンが鳴る。

「おーい、柚木さん、いますよね」

 

息をひそめる私のドア越しにいる男は、何度か大きな声で私の名前を呼んだあと、

激しくドアを叩いたり、ドアノブをガチャガチャと動かしはじめた。

 

膝の上にいる犬が、鳴き始める。

 

辞めてと思いながら、耳を塞ぎ、時が過ぎるのをたった。

おそらく数分がたった頃、音は止み、エレベーターが開く音がして、のぞき穴を確認すると、そこにはもう、誰もいなかった。

 

「よかった……… 」

数時間たっておそるおそる玄関先に出ると、部屋の扉一面に、とある用紙が貼り付けられていた。

 

その用紙は、「支払い催促状」という名で、私の住所や名前、家賃が滞っていること等がビッシリと書かれていたものだった。

(外して家にいることを察知されるのが怖くて放置していたら、次の日の朝6時には跡形もなく取り去られていた)

 

ちなみに、これらの行為を消費者金融がやれば、貸金業法という法律にひっかかり、一発でアウトになる。

しかし相手は「保証会社」で、この法律が適応されないグレーラインの業種だったのだ。

 

そして次の日の夕方、例の事件が起こることになる。

 

取り立てはついに、留守中の室内にまで

電気が止まり、食べ物がつきた私は、500円玉を握りしめて、犬の餌を調達するため家を出た。

 

真っ暗闇の中で取り残された犬のことを考えると気がかりで、パジャマのまま駆け足で家を出たことを覚えている。

 

「大丈夫だ、今日は催促の電話がかかってきていない。きっと2週間先の期日まで待ってくれる気になったんだ」

覗き穴を除き、玄関先に誰もいないことを確認した私は、素早くドアをあけてエレベーターに乗り込んだ。

 

そのままマンションを出て、片道10分かかるコンビニまで走る。

 

外は、部屋の中よりも明るかった。

たくさん人がいて、明かりもたくさんあって、先ほどまでの絶望的な孤独感が幻だったかのような気さえした。

みんなが当たり前のように素敵な洋服を着て、髪型を整えて、幸せそうに笑っている。

 

ああ、ここは、私の憧れていた東京だ。

そんなに遠くない過去のはずなのに、それら全てが恐ろしく別世界に見える。

 

私はコンビニに着くと、200円の犬の餌と、たまごのパック、おにぎりを持って、レジに向かった。

支払いを済ませようとするときに何の気もなく携帯電話の画面を見て、充電が16パーセントしかない事に気づく。

 

ハッとした。

電気が繋がらなければ、携帯の充電をすることもできないことに気づいたのだ。

 

私はコンビニを出て家路を急ぎながら、携帯電話の充電が切れる前にと、色んなことを調べた。

 

保証会社のこと、ヘルペスのこと、非接触型風俗がどれだけ稼げるのか……。

そうこうしていると、ショートメールに通知マークがあるのに気づく。

 

開くとそこには、料金未納のお知らせが随分前に届いていて、要約すれば本日中に料金を支払わなければ携帯電話の電波を停止しますよ、という内容だった。

 

「マジか」

と、声が出た。

 

八方塞がりとはこの事だ。

 

今のところインターネットは繋がっていたが、嫌な予感がして友達の番号に電話を発信してみると、

「お客様の電話番号は、都合によりお繋ぎできません」といった内容の、メッセージが流れた。

 

だから今日はまだ、取り立ての電話がかかってきてないんだ……と気づいて、ぞっとした。

家に帰らないと…。

とにかく犬にごはんをあげよう、それから考えよう。

 

どうかエントランスにいませんように、どうか張り紙がはってありませんように…。

と願いながらマンションのエントランスに着くと、そこには誰もいなかった。

私は念のために非常階段から、自分の部屋のある8階まで足を進めた。

 

部屋のドアの前には、誰もいない。張り紙もない。

ほっとして、鍵を穴に差し込んで回して、ドアノブに手をかけた。

 

…開かない。

ちょっとした違和感だった。

 

「あれ?急いでいたから閉め忘れていたのかな」と、もう一度鍵を回す。

……開かない。

 

嫌な予感がして、ふたつある鍵穴のそれぞれに鍵をさしこみ、回した。

………開いた。

 

そんなはずがないのだ。

私はこの部屋で暮らし始めてから一度も、両方の鍵をしめたことがない。

 

上の鍵だけを閉めて家を出るというルーティンがあった。

ぞくっとして扉を開くと、そこには相変わらず暗闇が広がっていたのだけれど、何よりもおかしかったのは、いつも開けたままにしているすべてのドアが閉まっていて、犬のためにつけたままであった懐中電灯の電源がオフとなっており、位置も机の真ん中からキッチン前のカウンターへ、変わっていたことだった。

 

いつもは嬉しそうに駆け寄って来る犬が、ガタガタと震えながら、叫ぶような声をあげて近づいてきて、私の膝でおしっこをもらした。

 

誰かが部屋の中に入った

そう確信した時、全身に鳥肌がたった。

 

懐中電灯をつけて机を照らすと、そこには保証会社の担当者の名刺だけが、ポツンと置いてあった。

後から知った話だが、悪質な保証会社は、警察に「自殺の可能性がある」と嘘の通報をして、合法的に部屋の中に入って名刺を残すらしい。

 

こうすることで居住者は居留守もできないし、私のように後から家に帰ってきたとしても、家の中に誰かが入ってこられるという状況を思い知らせるのは、

精神的負担を強いるための手段として十分な効果を発揮する。

 

私は恐ろしさで手を震わせながら、自分の人生を心から悔やんだ。

どうしてこうなる前に手をうたなかったのか。どうしてこんな状況になるまで放っておいたのか。

 

どこで人生を間違えたのか。

これからどうしたら良いのか。

 

今すぐにでもこの家から逃げ出したかったけど、私には犬がいる。

漫画喫茶やホテルに逃げることはできない。

 

すぐにでも支払いたいけど、お金がない。

働きたくても、ヘルペスのせいで働けない。

 

この子と一緒に死のうか、と思った。本気で思った。

 

目の前には返しきれない借金、震える犬、ライフラインが停止して真っ暗な部屋、性病。

そしてついに家の中にまで入ってきた取り立て。

 

なによりも、それら全部が、自分が撒いた種だという絶望感。

自殺の理由には十分だった。

 

だけど死ぬためのロープを買うお金がないことに気づいて、笑った。

死ぬのにもお金がかかる。

 

それにその時、母親の言葉を思い出していた。

 

「賃貸では自殺しないで。私達が賠償金を払わなくちゃいけなくて迷惑だから」

 

始まった極貧生活

不思議なことにそれから数日間 、取り立ては来なかった。

私の携帯電話の回線は停止されているから電話は使えないし、電気が止まっているせいでインターホンがならないので状況は分からないけれど、とにかく家の前には、誰も来なかった。

 

私は昔買った電池式の充電器をクローゼットの奥から見つけ出し、フルに充電した携帯電話を1日一回起動させた。

部屋の奥に一箇所だけ、真裏にたっているホテルのWi-fiをひろう場所があったので、その回線を使って、友達や店と連絡をとっていたのだ。

パスワードは、ホテルの電話番号だった。(ごめんなさい)

 

冷蔵庫の中身はほとんど全て処分して、まだかろうじて供給されているガスを使い、全ての卵をゆで卵にした。餓死はしないようにと、1日ひとつはゆで卵を食べるようにしていたけれど、犬のドッグフードが少なくなってくると、そのゆで卵も犬用となった。

幸いその年は冷夏で、日差しが刺さないその部屋は、皮肉なほどに涼しかったのだけが私の死を食い止めた。

 

そこから先は、もう二度と経験したくはない極貧生活が続く。

 

夜になると部屋中真っ暗で、とりわけ恐ろしかったのはトイレだった。

電気の供給が止まってはじめて座った時、その冷たさに驚いた。

今まではなんの気なしに暖房便座を使っていたから気づかなかったけれど、便座って、冷たいのだ。

 

トイレットペーパーが切れると、「つまりませんように」と祈りながら、ティッシュペーパーを使った。

ついにはティッシュペーパーが切れて拭くものがなくなると、トイレットペーパーの芯を使い、それもなくなると、ポストの中からできるだけ柔らかい紙広告を見つけ、それを使った。

 

コンタクトレンズの液もなくなって、毎日同じ汚い液を使うことになった。

 

犬の糞尿の世話も大変だったことを、今でも思い出す。

ティッシュやシーツがないから、これもまた広告や、私の服を使って、いくつものお気に入りを捨てた。

 

因みにこれは盲点だったのだが、近頃のシャワーは電気がなければお湯が出ない。

ガスでお湯が使えると思っていたので、それを知った時は絶望した。

 

冷水でシャワーを浴び、ドライヤーは動かせないし洗濯もできないから、自分のTシャツを使って、何度も体を拭いた。

 

その頃にはヘルペスの痛みもなくなっていたけれど、店は万が一を考えて出勤させてくれず、ひたすら待つ日々が続くだけ。

 

「誰かが突然家に入ってくるかも」「誰かが私の家の鍵を持っている」

 その事実は私を精神的に疲れさせ、どんな小さな物音にも、過剰に反応した。

 

今思えば、状況を打破する方法はいくらでもあったのだろうが、

人は目の前のことで精一杯になると、周りが見えなくなるものだ。

 

ようやく弁護士に助けを求める

そんな生活が続いてしばらくたった頃、ついにドッグフードが底を尽きた。

それまではどんな状況も我慢できていた私だったけれど、誰かが一緒にいる場合、そしてその相手に自分のせいで我慢を強いることになるというのは、自分のこと以上に苦しかった。

 

私が食べさせなければ、彼は死ぬ。

 

そこまで来て初めて、私は外部に相談することを選んだ。

インターネットで調べていた弁護士事務所に、ライン電話から電話をかけたのだ。

(電話の回線が使えなくなっても、Wi-fiさえあれば固定電話や携帯電話に電話ができる。LINE電話では広告を見れば3分無料で電話番号相手に通話が可能。加盟店であれば無制限で無料なので、もしもの時のために覚えておいてほしい)

 

三分しか時間がないから、と早口で状況を伝えた。

内容はあんまり覚えていないけど、「私、なんとかなりますか?」と、言ったのだけは覚えている。

 

 「ギャンブルやブランドものに使っていなければ自己破産できる。債務整理の適応になる可能性もある。あなたはなんとかなる。また電話してください。」

と、これまた早口で言われて、それだけで、随分と心が救われた。

 

「あなたは、なんとかなる」

 

この言葉を聞いた私はようやく生きる希望が湧き、働いていたソープ店に連絡をして、迎えにきてもらった。

電話を借りるためだった。

 

 

人は案外、自分のためには生きられないものだ。

愛するものや守るもののために力を振り絞る方が、きっとはるかに簡単なのだ。

自分がのたれ死ぬのは簡単でも、自分の愛する対象を目の前で野垂れ死なせるのは、もっとグロテスクなのである。

 

私は待機室のWi-fiを使って自己破産や債務整理のことを調べ尽くし、そして借金を任意整理することを決めた。

 

電話を借り、さっきかけた弁護士事務所にもう一度電話をかける。

家賃保証会社の状況や自分の体の状況、そして犬のことも話した。

 

その時に担当してくれた弁護士さんの言葉を、今でも忘れない。

 

「良いですか?借金なんて、どうしても辛ければ無視すれば良い。真っ当な消費者金融は、映画のように逃げた先に押しかけたりしません。

一時的になら、夜逃げしたって良いんです。もしも居場所がバレても、せいぜい封筒が届いたり、礼儀正しい男性が家に一度くるくらいです。

 

今大切なのは、あなたが生きることです。生きていれば、お金は絶対に返せます。

少しずつでも、状況は改善する。その時にもう一度あなたの人生をたてなおせば良い。お金を借りていた相手に、謝れば良い。

 

あなたが 死んでしまったら、心を失ってしまったら、取り返しがつかない。

あなたの命や家族が危機的状況なら、それを優先してください。 

 

借金のために風俗で働くのも、嫌ならやめましょう。私はあなたのお手伝いをしますが、そのために、私には嘘をつかないでください」

 

怒られたり、呆れられたりするだろうなと思っていた。

それが怖くて相談できなかったという気持ちが、少なからずあったからだ。

自分の非を認めて助けを求めるのは、私にとって勇気がいるものだった。

だってその借金は多額で、そしてそれは誇れる理由だけで作ったものではなかったから。

 

だけど彼は、私の全ての状況を聞いたうえで的確な指示をくれて、それでいて、責めなかった。

 

「柚木さんは知らないと思いますけど、もっと深刻な状況でも、はははって笑っている人がたくさんいます。柚木さんは闇金からも借りてないし、まだまだ大丈夫ですよ。」

 

私はその夜犬を連れて、働いていた風俗店が所有するマンションに一時的に夜逃げをする形をとった。

荷物は全部置いて出た。

 

マンションについて部屋に入った時、電気をつけようとしない私に呆れて、店長がスイッチを押した。

 

「あ、電気がつくんだ」と、驚いた。

パチンと音がして明るくなる。

 

電気がつくあの時の気持ちを、なんと表現すれば良いかわからない。

とにかく、涙が止まらなかった。

 

「ここは安全だ」と思った。

光は、人の心を正常に保つために欠かせないものだと思う。

 

日常を照らし、必要なものを明らかにする。

落ち込んでいる人がいたらまずは電気をつけてほしいって伝えるようになったのは、こんな経験から。

 

夜逃げをして、逃げ切ることはできるのか

そこからしばらく夜逃げ生活を送って生活の基盤となるお金を用意していたのだが、

ようやく携帯の回線をつなげた途端に、保証会社からの電話が鳴り止まなくなった。

 

電話だけではなく、いろんな電話番号から、ショートメールも送ってくる。

「どこに行ったんですか?」「今家の前にいます」と行った具合だ。

 

私が加入していた家賃保証会社について調べると、突然鍵を付け替えられたり、飼っていた犬を「家財処分」されたという人までいた。

 

全てはお金を返さない債務者が悪い。確かにそうだ。

だけど精神的に追い詰められた人たちは、周りが見えなくなってしまう。そしてそのまま、堕ち続ける。

堕ちた先の果ては、死だから怖い。

 

私には、考える時間が必要だった。お金を用意する時間が必要だった。

 

もちろん、全ての債務者がそうだとは限らない。

なんの罪悪感も持たず、返すあてもなく、借り逃げをしようと企む人もいる。

 

だけど私は、風俗嬢だった。働きさえすれば、返すアテはある。

そんな私でさえ「どこにも逃げ場がない」と追い詰められたその時は、そんな少し先の未来のことすら、考えられなくなっていた。

何から手をつけて良いのか分からない。考える余裕がない。

そうやって、追い詰められていったのだ。

 

さて、きっと借金に悩んでいる人であれば「夜逃げ」について調べたことが一度はあるであろうから、この辺りで先に、実際に夜逃げを経験した私が「夜逃げで死ぬまで逃げ切ることは可能か」という質問に答えておきたいのだけれど、実をいうとその答えは、YESだったりする。

 

え?どのウェブサイトにも不可能だって書いてあるのに?

 

そう、そうなのだ。

夜逃げで逃げ切ることは、できるのだ。

女性ならなおのこと、簡単だったりする。

 

だけどそれには当然コメジルシもあって、「※まともな生活を捨てる」ことが条件だ。

そしてこの「※まともな生活を捨てる」というのが、いくら覚悟を持っていても難しい。

その理由は大抵、人生の登場人物が、自分だけでは収まらないからだ。

 

正直に言うと女の私にとって、夜逃げ生活を続けるのは簡単だった。

「泊まらせてほしい」と言えば泊めてくれる男性は多いし、風俗だってあるから、身分証さえあれば仕事もできて、寮も用意してもらえる。

肌感覚として、裁判を起こされた場合の借金の時効を配慮した15年程度を逃げ続けることは可能だったと思う。

 

だけど、少しずつ時間をかけて生活がまともに戻ってきたとき、大きな問題に直面した。

夜逃げ生活を始めて誰もが直面する「住民票」の問題である。

 

住民票は、貸付している側が自由に取り寄せ、閲覧することができるので、馬鹿正直に住民票を新しい住所になんてうつそうものなら、一瞬で居場所がバレてしまう。

 

じゃあ、住民票をうつさなければ良いじゃない。

 

実はこれが、簡単にはいかない。

 

家族がいたり、もしくは新たに家族ができたりすると、この「住民票が動かせない」というのが、じわじわと生活を苦しめてくるのだ。

 

子供を学校に行かせられない。パスポートが取れない。就職ができない。

家が借りられない。婚姻届は、どこに出せば?

 

もちろん住民票がなければ生活保護などの社会的保証も受けられないし、無職の状態であれば保険証も発行できない状態になる。

 

かくいう風俗嬢だった私も、ソープランドでの勤務ができなくなった。

(ソープランドで働くためには本籍地記載の住民票が必要だ)

 

幸い私には家族もおらず、デリヘルで働いていたのでしばらくは問題が起きなかったが、しばらく逃げ回っている間に免許証の期限が切れることで、この「住民票問題」に直面することになった。

 

身分証がなくなって、いよいよ、風俗で働くことさえできなくなったのだ。

やばいと思った私は何かしらの身分証を手に入れようと試みたが、「身分証」をつくろうとすると、「身分証」が必要だと断られた。

 

有効期限に気づかれないようにすれば新しいお店でも働けたが、ほとんどは不可能だ。

住民票がなく、身分証もない、という状況はそんなに長くは続かなかったものの、生きている心地がしなかったし、社会から完全に孤立した「自分」がなんなのか、考えさせられた。

 

本来であれば家もなく、食事もできずに死んでいってもおかしくない状況だったし、たまに満員電車に乗って「まともな人たち」を見ると、疎外感と罪悪感で吐き気がしたのを覚えてる。

 

免許証の有効期限が切れて身分証が完全になくなってしまった時に、「運転経歴証明書」を作って難を逃れたから、同じことで悩んでる人がいたら読んで見てね。

 

さて、夜逃げ生活を数ヶ月続けて、携帯電話の回線をつなげることができ、次の家への引越し費用と、当面の食費を蓄えた頃、私はようやく弁護士と相談し、本格的な任意整理の手続きに移ることにした。

 

実はこの時私は、担当弁護士に 「自己破産」を強くすすめられた。

私の中で「自己破産」と言えば人生の終わりのような気がしていたし、一生その刻印を押されるような気がして強く拒否していたら、「自己破産は人生の終わりではなく、やりなおしですよ」と言われた。

 

「600万円は、あなただけの借金じゃない。これにずっとしばられ続けるよりも、借金を0にして、人生をやりなおすべきだ。あなたはまだ若い」

自己破産をすれば近所中に知られると思っていたが、そんな事実はなく、デメリットといえば数年間はローンが組めない、破産の手続きが終わるまでは海外旅行や引越しができない……。と、今の生活から解放されることを考えればとても小さなものだった。

 

持ち家や車、高級品や貯蓄があると差し押さえされるが、そんなものは手元にない。

だけどそれでも私が自己破産ではなく任意整理を選んだのは、「お金を踏み倒したくない」と思ったからだった。

 

そしてもうひとつは、自己破産であれば強制的に全ての貸付を対象にしなければならないところを、

任意整理であれば整理する対象を選択できる、という大きなメリットがあったことも理由にあげられる。

 

幸い私はどの消費者金融にも連帯保証人をつけていなかったが、唯一ひとつだけ、学生時代に借りていた「奨学金」には保証人が設定されていた。

忘れがちではあるが、奨学金は借金だ。

 

誰にも迷惑をかけたくなかった私は自己破産することで奨学金の返済が保証人に回ることを避けるために、奨学金以外を対象とした貸付全てを任意整理にかけることに決めた。

 

さぞかし大変なことになるだろう。と、思っていた。

弁護士事務所に通ったり、お金を用意したり、毎日電話をしたり……。

 

だけど、難しいのだろうなとか、まとまった弁護士費用がかかるのだろうなとか、いろんなことを考えて敬遠していた借金整理は、驚くほどに簡単だった。

今まで整理してこなかったことを、悔やむくらいに。

 

相談料もかからず、弁護士費用も分割で対応してもらえた。

因みに私は、一度も直接弁護士さんにお会いしたり、事務所に出向いてすらない。

 

宣伝くさくなるが、何よりも大切なところだからしっかりと書かせてほしい。

債務整理をするために、まとまったお金や時間を用意する必要はない。

 

あなたが「なんとかしたい」と思ったその日に、弁護士が取り立てをストップさせて、交渉に入ってくれる。

 

ここからは私があなたの借金整理の担当になります。私が各会社に受理したことを伝えた時点で、あなたへの取り立ては一切なくなります。

もしもそれ以降に電話や訪問で取り立てをしてくる会社がいたら、対応せずに私に伝えてください。

 

その翌日は、確か火曜日だった。

火曜日と言えばド平日で、もちろん取り立ての電話が朝からかかってくる予定の日であるが、その日は一切、電話がならなかった。

 

もちろん、保証会社からも。

 

事前に説明を受けていたとはいえ、弁護士の先生が間に入ることによってこれほどまですぐに膨大な数の取り立てがなくなるのかと、驚いた。

 

それと同時に、本当にほっとした。

 

今まで利息のせいで先が見えなかったり、取り立てに追い詰められたり、会社の数が多すぎてなにがなんだか分からなくなっていた返済が、

任意整理をしたことにより利息もなくなり毎月の返済が半額以下になったし、振込先が全てひとつの口座だというのも、精神的な負担を軽減させた。

 

弁護士の先生が返済終了までのシミュレーションをたててくれたおかげで、「先」を、想像できるようになったことも、大きかった。

 

私には、味方ができたのだ。

今まで一人で追い詰められていた時間が、嘘みたいに思えた。

どうしてもっと早く相談しなかったのかと、本気で悔やんだことを覚えている。

 

もう逃げなくて良い。

法律という盾に守られていることがどれだけ尊いことか、私はこの一件で痛いほどに学んだのである。

 

月日が経って

あれから、数年の月日がたった。

長いのか短いのかは分からないけれど、少し前、債務整理をした借金の返済を終えた。

 

私は今、電気が消える心配のない家で、暖かいシャワーを浴び、ガスを使って料理をして、犬には高めのドッグフードを、惜しみなく与えている。

電話の着信音に怯えることも、玄関のチャイムに怯えることもなくなった今、私は間違いなく幸せだ。

 

今回の話を聞いても、ピンとこない人はたくさんいると思う。

「そんなになるまで放っておいて」って、お叱りだって受けるかもしれない。

 

だけどもし、私と同じように、あの時の私のように悩んでいる人がいたら。

取り立ての電話が怖くて、だけどどうしたら良いのか、何から手をつけたら良いのか分からなくて、泣いている人がいたら。

 

どうか、今すぐにでも、弁護士事務所に電話して、指示を仰いでほしい。

 

それからこれは、きっと正しいことではないかもしれないけれど。

もしも取り立てがきつくて、返せるあてがなくて、自殺や心中を考えて追い詰められている人がいたら。

まずはどうか、迷わず逃げてほしい。

 

夜逃げでもなんでも良いからそこから逃げ出して、安全と安心を確保して。

借金の返済はそこからまた、考えれば良いから。

 

「良いですか?借金なんて、どうしても辛ければ無視すれば良い。真っ当な消費者金融は、映画のように逃げた先に押しかけたりしません。

一時的になら、夜逃げしたって良いんです。もしも居場所がバレても、せいぜい封筒が届いたり、礼儀正しい男性が家に一度くるくらいです。

 

今大切なのは、あなたが生きることです。生きていれば、お金は絶対に返せます。少しずつでも、状況は改善する。その時にもう一度あなたの人生をたてなおせば良い。

お金を借りていた相手に、謝れば良い。

 

あなたが 死んでしまったら、心を失ってしまったら、取り返しがつかない。

 あなたの命や家族が危機的状況なら、それを優先してください。 」

 

この言葉が、私を助けてくれたから、だからこの言葉を、あなたにも送りたい。

 

もしもあの時、弁護士の先生にこの言葉をかけてもらえなかったら。

大げさでもなんでもなく、私はきっと、死んでいたと思う。

 

借金問題は、解決しなければならない。

それは、借りた側の人間の義務だと思う。

 

だけど、あなたが死んでしまったら、あなたが潰れてしまったら、なんの意味もないのだ。

 

誤解を生むかもしれないけれど、だけど全部経験して、そのうえで今幸せだから。

最後にこの言葉を書いて、私の記録のまとめにしたい。

 

借金なんてまじでどうにでもなるから、そんなことで死のうなんて考えるな。

大丈夫。あなたが生きてたら、なんとかなる。

 

借金についてのまとめ

この記事を読んで借金の任意整理を考えている人のために、ちょっとしたアドバイスを残しておきたい。

まずは借金整理という行動をうつすべきか考えるうえで、「せめてこうなる前には行動にうつしてほしい」という基準はやっぱり、ライフラインが停止しはじめた頃だと思う。

 

電気やガスが止まると、想像以上にメンタルを削られて、借金返済どころではなくなってしまう。

家賃とライフラインが払えているうちは、弁護士さんを頼らなくても、どうにか生活をたてなおすことができるかもしれない。

 

それからもうひとつ、私が経験した悪質な取り立て。

もしも私が経験したような取り立てに追い詰められている人がいたら、それは違法業者かもしれない。

基本的に法律を守って事業をやっている消費者金融は、以下のような、禁止されている取り立ては行わない。

 

もしもルールに反してこのような取り立てが行われている場合、すぐにそこから逃げたり、警察に相談することをおすすめする。

債務者は「支払いが滞っている」という負い目があるため、自分が悪いのだと追い詰められてしまいがちだが、私たちには守られるべき人権があるのだ。

 

最後に。

債務整理は、基本的には家族や恋人に知られずに行うことができる。

宣伝くさくなってしまってでも伝えたいのは……

 

もうとにかく、一刻も早く。

借金整理をして借金を減らして、安心して生活してほしい。

 

借金なんてまじでどうにでもなるから、そんなことで死のうなんて考えるな。

大丈夫。生きてさえいれば、なんとかなる。

 

yuzuka

 

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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