考え方

ビッグダディの子育てって、正解だったの?本人と娘達に、会ってきた。

2018年3月8日

目次

「お金がないのにたくさんの子どもを産む」って、どうなの?

yuzuka ただ、「可哀想だ」といわれる要因も、やっぱりあると思っていて。例えば私は今、「子どもを産んで子育てができるか?」って言われたら、答えはNOなんですね。

その理由は、今、自分が経済的に満足な形で自立をしていないと思っているからです。子どもに充分な教育を受けさせてあげることができない。しっかりした子育てをしていく自信がない。って、どうしても思ってしまうんです。私と同じように、経済状況を考慮して子どもを諦めるって方、少なくはないとは思います。

そんな中で、林下さんのご家庭って、決して裕福ではない状態で、お子様を何人も産むという決断をしたじゃないですか。その時の考えとか感覚って、やっぱり世間とは少しずれている気がして。そのあたりがお聞きしたいんです。

林下さん だからね、そうやって頭で考えるからだよ。子育てってのはね、誰にだってできるものなの。子育てを「理屈」でしようとするから、おかしくなるのよ。本当はね、本能に基づいてしなきゃいけないんですよ。

こんなこと言ったらあれだけど、子育てってね、犬でも猫でもやってるでしょ。誰からも教わっていないのに。あれは本能ですよ。子どもが出来て、生まれたら、「可愛いな」って大事に思う。食事だってお金だって、足りない中でわけあっていけば良い。それが家族です。そんなに難しい話じゃないんだよ、子育てって。それで良い。頭で子育てするのなんて、人間だけですよ。

今ってね、立派に母親にしているような人だって、実は「愛情」に基づいて子育てしているわけじゃないケースがあるんです。「母親はこうあるべき」っていう強迫観念に基づいて、ちゃんとした母親をやってるっていうパターンですよ。そんな子育ては間違えているし、つまらない。子育ては、単純に本能と愛情に従ってやるべきですよ。

yuzuka なるほど。因みにお子様をたくさん産んできたのは、単純に「子どもが好き」という本能からなんですか?

林下さん 違う違う(笑)俺ね、もともと子どもなんて好きじゃなかったんだよ。

 

yuzuka え……。意外すぎます。そうなんですか?

林下さん そうそう。ただね、親が死んでしまった時にほんとうの意味での身内が、片手に足りるほどしかいないって、子どもたちにとってどうなんだろうなって考えて。自分が子どもが欲しいからではなくて、子どもの将来のために、子どもは多い方が良いって思ってるんだよ。俺も大家族出身だしね。

 

yuzuka 子どもが好きではない状態でたくさんのお子様を育てるって、それこそ大変ですよね?

林下さん 男なんてそんなもんでね、最初は「俺が父親?」って思うけど、産んだらやっぱり、自分の子どもは可愛く思うんですよ。それで、やるんだもん。「子どものためなら」って。それで良いんです。それで家庭が守れれば。 男なんてそんなものですよ。

 

yuzuka 子どもを産んで、気持ちに変化があったんですね。

林下さん 子どもを奄美に置いて、愛知県に二年間出稼ぎに行っていた時期があってね。その間、俺は給料に一銭も手をつけずに、全部奄美に送ってたんです。俺自身は週末のバイトだけで暮らしてた。どうしてそれができるってね、「子どものため」だからですよ。どんなに良い女でもね、二年間自分の給料に手付かずで振り込むなんて、絶対にできない。それがね、子どものためならできるから、すごいんですよ。

子育てってそういうものです。貴女が今、頭で考えて子育てが出来ないって思うのは、親じゃないから。子育てをやってないから。やったらね、できるんですよ。だから子育てって凄い。俺みたいな奴でも、変われるんだもん。どんなに良い女のためにも自分を変えるなんて出来ないけど、子どものためなら変われるんです。

yuzuka あれだけのお子様を生んで、自分の時間を削って育てていくことを選ぶって、よほどのお子様好きなのかと思っていましたが、そうではなかったんですね。

林下さん 違う違う。まったく。だからね、今は子どもから手が離れて、すごく気が楽。俺は50まで元気に生きるってのが、目標だったんですよ。俺が50になった時って、俺が生んだ8人の一番下が、高校に入る年だから。

そこまで頑張れば、後は俺が「ウっ」と心臓を抑えて死んでも、あとはなんとかなる。とりあえずそこまでは……。と思って生きてきたから、50が来たときはすごくほっとしたよ。もともとがそうだったからね。今は子どもが手から離れた寂しさなんかよりも、ほっとした気持ちの方が大きい。

 

yuzuka  なるほど。寂しさよりも、安堵感なんですね。

林下さん 人間なんてもともと、孤独な生き物ですからね。そりゃあ時々子どもが遊びにくれば、「やっぱり子どもがいたら面白いなー」って楽しいですけどね。それで苦しいとか寂しいとかは、ないですね。

 

yuzuka 娘さん達とインタビューが終わった後、「お父さんは私達がいないのが寂しくて猫を飼った」って言ってましたけど……。

林下さん 寂しいからじゃないよ!あれは近所の人に頼まれて飼ったの。「誰かに貰われないと保健所にいくんですー」って。

yuzuka  てっきり寂しがっているのかと……。(これが天邪鬼ってやつか)

 

「兄弟間で恩を回す」そのルーツは?

yuzuka そういえば、ちょうど雑談している時に、猫の件でもそうですが、周囲の方の手助けをすることが多かったというお話もお聞きしました。

みなさんがまだ幼い頃とかに、近所の子どもを預かったり、朝ご飯を食べさせたり。海外からまで助けを求める手紙が来たというお話を聞いたんですが、子どもが好きではないのだとしたら、そういう活動って、どういう思いでやられていたんですか?

林下さん そうそう。あれはね、兄貴だよ。兄貴に対しての恩返しなの。俺、高校の時においたが過ぎて、家を追い出されてね(笑)兄貴と二人で暮らしてたのよ。兄貴は26で独身だったんだけど、毎日俺に弁当を作ってくれてね。

俺が茶碗を洗ったことなんて、その何年かの間に、2回あったかどうか。とにかく兄貴がずっと俺の面倒みてくれて。卒業してからも、貧乏だから無理だと思いながらも「進学したいんだ」って言ったら、「行けば良いじゃないか」って。兄貴の給料で、学校に行かせてくれた。

 

yuzuka  すごい……。

林下さん それでね、兄貴は恩着せがましいことなんて一切言わないんですよ。これは兄の考え方でもあるんですけど、俺は恩って、受けた人に返さなくても良いと思っていてね。だから登校拒否の子どもがいるんだ。困ってるんだって話を聞いた時に、兄貴への恩を返すために、預かることにしたのよ。

結局一番長い子は、三年半くらい一緒に暮らしましたね。その子もちゃんと働くようになって、親も喜んでました。その子に関しては甥っ子なんで、半分身内なんですけどね。でも、兄貴に対しての恩返しを、その甥っ子にしたっていう気持ちです。

yuzuka  それって、お子様にも伝わっていますよね。「兄弟間で恩を回す」って言葉、娘さんの口からも聞きました。

林下さん そうなんです。うちの子たちは凄いですよ。次男なんかもね、料理人を目指していたから、本当はそういう学校に行きたかったんだけど、自分が高校の時に小遣いがなくて辛かったからって、初任給の一番高い建設業界に行ってね。今でも毎月下の子らに仕送りしてくれていますから。

そのあと二年たって、「もう自分の好きなことをして良いぞ」って言って。そこから調理師免許をとって、今は結構任せてもらったりしてるみたいだけど。自分の好きな道に行く前にね、自分のためだけじゃなく、妹らのために全然違う業界に入って、妹たちを支えて。すごいですよ。

 

yuzuka 家族の絆を感じる場面が多いんですけど、例えば「恩は返しあう」ってもの以外に、「家族間では嘘をつかない」ってのも、徹底されてらっしゃいましたよね。

林下さん そうそう。俺はね、学校の先生には嘘をついても良いけど、俺には嘘をつくなよって、ずっと言ってきてたの。だって、俺の働いた金で買ったトイレットペーパーでケツを拭いている奴が俺に嘘をつくなんて、信じられない。それは絶対許さない。ルールです。

 

yuzuka  お子さまがたが、林下さんに対して「清志さんにだけは嘘をつけない、裏切れない」って感じているのがひしひしと伝わってきますし、そういうルールを徹底されてるから、尊敬の念も生まれるのかなって。

林下さん 尊敬とか親とか、そういう感覚じゃないのよ。仲間、仲間。

 

yuzuka 何かを決める時も、その都度必ず会議が開かれて、意見を出し合うっていうのも、親と子というよりは、「仲間」として家族を回しているって感じがしますね。

林下さん そうだね。

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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