考え方

子どもを殺す母親の話

実はこの頃、相手の夫は不倫をしていた。

幾度となる話し合いの中で夫は、「お前は女らしくないから」「結婚して変わってしまった」と、何度も口にしたという。

 

そして何よりも彼女にダメージを与えた言葉は、「俺、父親に向いていないわ」だった。

 

「つまりね、父親に向いてないから降ります、辞めますって言いたいんだよ。」

彼女が娘を殴ったのは、その話し合いのすぐ後だった。

 

「殴った」と言っても、軽い平手打ちだったことが、話を聞いていて分かった。

 

小さな嫌なことが重なって、重なって、重なって。

彼女の心はもう、ぱんぱんに腫れ上がっていた。

 

そこにほんの小さな刺激があれば、心は簡単に破裂する。

その「きっかけ」が、彼女にとっては「泣き止まない娘」だった。

 

どれだけ疲れていても、どれだけイライラしても表に出さなかった彼女の心が、破裂した。

 

「泣き止まなくて、気づいたら、殴ってたの。

あんたのせいで私、全部我慢してきたんだから、おとなしくしててよって、思っちゃったの。産んだのは私なのに…あの子、 なにも悪くないのに… 」

 

彼女は、育児ノイローゼだったのだと思う。

 

泣きながら話す彼女は、こう続けた

「娘ね、叩いた瞬間泣き止んでね、私…すっとしちゃったの。それが怖いの」

 

虐待には中毒性がある、という言葉を思い出した。

虐待をする親たちは、たとえ児童相談所が決死の思い出子供を保護しても、あの手この手で子供を取り返そうとする。

 

虐待の対象がいなくなったことが、耐えられないからだ。

 

例外を除き、ほとんどの母親は、はじめから子供を痛めつける目的で殴ってはいない。

どこかで心が弾けて、一度手をあげてしまうのがきっかけになるのだ。

 

一度殴ってしまってから、虐待やネグレクトがエスカレートするケースが後をたたない。

 

「どうしてそんな男と一緒にいるの?もっとあなたのことを支えてくれる人を選んでほしいよ…」

思わず呟く私に、「結婚する前に彼と会ってる時、唯一私が『母親』でいなくても良い時間だったの。私自身だった。

この時間を失いたくないって思ったの 」と、彼女はそう言った。

 

「母親失格だって分かってるけど、じゃあ、私はどうしたら良いかな。男は「父親に向いてないから辞めます」って、

みんないなくなるけど、母親に向いていない私は、どうしたらいいかな 」と、彼女は力なく笑った。

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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