ねえ、あの日。最後の日。
あなたの車からおりて手をふっていた私のことを、覚えてる?
どの愛が本物でどの愛が偽物か精査するのはやめようと思う。
あの時にあった愛はどれも本物で、どれも愛おしくて、どれもかけがえがなかった。
随分前に手放してしまった恋がある。
理由があって、考えて、天秤にかけて、あの時間違いなく「手放した方が良い」と決めた、そんな恋だ。
それまで見ていた未来予想図が真っ白に塗りつぶされていく感覚を、
当たり前のように繋いだり離したりしていた手を、そのまま離したらもう掴めないと気づく瞬間を、
私たちはそんな胸が押しつぶされる瞬間を超えて、たしかに手を離した。意図的に、離した。
だけど、そこにはあったんだ。たしかな愛しさが。
自転車の後ろで確信した相手への思いが。
思い出の歌の中に描いた未来が。
見つめあった時に溢れ出た、二度と感じることのないような安心感が。
そこにはあったんだ、「愛」が。
私たちは愛を手放すとき、塗りつぶしてみたり放り投げてみたりしまいこんだりして、
なにも感じないように、なにも見えないように、自分からできるだけ遠くに押し込めてしまおうとする。
新しい誰かとの恋を見つけて、その愛をはぐくむために、その理由を作るために、
綺麗だった思い出すらも見て見ぬ振りをして、「だけど私が選んだ『さよなら』だから」って、忘れ去ってしまおうとする。
だけど、だけど、だけど。
ふとした瞬間に。
ふとした瞬間に蘇る。
ふたりで祝った毎月の記念日に、相手の誕生日に、同じ香りの柔軟剤を嗅いだ時に、
いつの日か一緒にくだった坂道を通り過ぎるときに。
「ああ、ここにいたんだ」って。
わたしたちはそこにいたんだ、たしかにいたんだって、思い出すんだ。
私はもう、許したくないよ。
愛をなかったことにすることなんて。
そこに確かにあったものを、なかったことにすることを
もう、許したくないよ。
あの時にあった愛はどれも本物で、どれも愛おしくて、どれもかけがえがなかった。
だからね、今はちょっと辛いかもしれないけれど、いつか時間がたったとき
全ての恋を愛おい気持ちで思い出せますようにって、そんな風に思ってる。
ねえ、あの日。最後の日。
あなたの車からおりて手をふっていた私のことを、覚えてる?
私はね、思うんだ。あの時、あの場所、あの瞬間に、愛はあった。
yuzuka
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