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拝啓、高校生の頃の私へ

拝啓、高校生の頃の私へ

夢に満ちていた、あの頃の私へ。

まともだった、あの頃の私へ。

語りかけながら、らしくないけれど、

ちょっとだけ今後の抱負なんて、吐いてみようかなって思うんだ。

 

高校生活最後の日、貴女は全校生徒代表で、答辞を読みましたね。

クラスの中心にいた貴女は、先生とも仲が良くって。

 

答辞の最後に、こんなことを言います。

 

「私は先生達の期待を裏切らないためにも、立派な大人になります」

「看護師として、真っ当に生きていきます」

 

大好きだった担任の先生も、若気の至りで恋をしていた世界史の先生も。

みんな貴女の答辞を聞いて、泣きます。

 

そしてきっと、みんな心から思ったことでしょう。

貴女も、貴女の友人も、そして恩師も。

 

「貴女の夢は叶う」

 

慣れないお団子ヘアは崩れていたけれど、泣き顔で盛れていない写真しか撮れなかったけれど、

あの時の貴女は、青春の光に照らされていた貴女は、確かに真っ直ぐで、美しかった。

 

だけどね、先に言わせてください。

貴女がその頃目指していた夢は、全て叶いません。

想像していた未来は、手に入らないのです。

 

あなたは確かに、看護師として働きます。

精神科、美容外科。あなたの憧れていた場所ばかりです。

 

毎日楽しくて、学生の頃と変わらないまま、患者さんが大好きで。

お酒を飲むようになってからは、酔っ払うたびに患者さんの話をしては

先輩達に面倒臭がられましたね。

 

自分の生き方に誇りを持っていました。

カッコイイ自分が大好きでした。

 

だけど、そんな自分を捨てなければいけない日が、やってきます。

 

あなたはそれから程なくして、風俗嬢になるための面接を受けに、神戸の街へ出向きます。

事情がいろいろあったとはいえ、自分自身の選択なのに、少し驚きました。

 

キャバクラはおろか、居酒屋ですらバイトをしたことのなかった貴女が、

水商売の中でも最もハードルの高い、風俗の門を叩いたのですから。

 

あの時決断した瞬間の記憶が、実は今の私にはありません。

どうしようもない理由があったこと、頼る場所がなかったこと。

それだけは覚えていて、気づいたらもう、お店の前にいました。

 

その日、初めて好きな人以外の前で裸になった貴女は、

知らない誰かのアレを咥えた貴女は、泣きませんでした。

悲しくもありませんでした。

「おかしいなあ」って思いながら、徐々に、徐々に、ぬかるみから抜け出せなくなっていきます。

 

ああ、ちょっとだけはぶくけど、ここから先数年の貴女の人生は、正に地獄です。

ごめんね。だけど少しだけ耐えてほしいの。

 

貴女はその数年で、何度も何度も死のうと思うんだ。

笑っちゃうんだけどさ、実は洗面所のドアノブには、つねにロープがかけてあったりして。

台所にある大きな瓶の中には、個人輸入で取り寄せた精神安定剤が、大量にストックされてあった。

 

毎日薬を飲んで、ロープを首にかけて。「記憶がない間に死んでますように」って願いながら目をとじる。

だけどちゃんと朝は来て、「やっぱりか」って苦笑いする。

 

ああ、暗いよね。ちょっと人生に、絶望しちゃいましたか?

ごめんなさい。だけど、やっぱり耐えてほしい。もう少しだけ、この手紙の続きを読んで下さい。

 

体を売ったあなたは、たくさんの大切なものを失います。

まずは貞操観念。おそらくそこから数年間で、貴女の経験人数は、三桁なんて軽く飛び越えます。

朝起きて夜寝るまで、知らないおじさんとセックスして。

ひどい日だと、一日で一三人とセックスをしました。

稼いだお金は、ATMに飲まれていく。残ったお金は、いつのまにか消えてしまいます。

 

そしてあなたにとってセックスは、特別なものじゃなくなります。

手をつなぐのも、キスも、なんだって、お金さえあれば、

誰とでもできてしまうようになるのです。

 

人に裸を見せるのにも、抵抗感がなくなります。

面接で「脱いでみて」と言われれば、なんの躊躇もなくパンツをおろすようになりました。

 

それから友人達も、一旦は貴女の前から、いなくなります。

っていうのも、貴女が耐えられなくなっちゃって、連絡を取らなくなるの。

 

幸せそうな二人目の子どもの妊娠の報告を聞きながら、自分は性病の検査に必死で。

悔しくて、悲しくて、それで、離れていったんだよね。

 

ああ、そうだなあ。

病気で働けなくなって、無一文になった月もありました。
病名は性器ヘルペス。

 

おしっこをするたびに激痛が走って、タオルを噛んで、泣きながらトイレに行きましたね。

その日暮らしのあなたは、いろんな支払いができなくなって。

 

電気も止まって、ガスも止まって、水道も止まります。

暗い部屋でロウソクをつけようとしたら、暗すぎてロウソクを全部ぶちまけて、泣きました。

夜って、電気がないとこんなに暗いんだ。とか、オール電化だと、シャワーもできないんだとか。

それから水道だけは、なかなか止められないことなんかも。

 

そういう、知りたくもない事実を知りましたね。

ああ、地獄。

 

だけどね、貴女はちゃんと耐え忍ぶ。

「死んだほうがマシだ」「この先には絶望しか待っていない」と思いながらも、

どうにか、どうにか生きていく。

 

そんな暗闇の中にいたのに死ななかったことが不思議なんだけど、

あなたは死ぬのが怖くって、死ねなくて、結局生きのびます。

 

生き延びたっていうより、偶然、生きちゃってたって表現が正しいね。

絶望的な暗い沼を漂うような感覚で、貴女はぼんやりと、生きていました。

 

ここからはね、素敵な話だから、耳をかっぽじって聞いてみてよ。

 

なんとなく生きながら、なんとなく働いていた貴女は、

何人かの「なんとなく」の彼氏と付き合った後、「なんとなく」ではない、大好きな人に出逢います。

 

ヒントをあげましょう。その人とは、海の近くで出会うよ。

あまり笑わない人けど、笑うと笑顔が可愛い人です。

 

その人に出会う少し前、

それまで風俗嬢として、その事実を誰にも告げずに生きてきた貴女は、

その苦しさや悔しさを、言葉にすることを覚えます。

 

貴女の言葉は多くの人に届き、共感してもらえて、

「救われる」なんて言われたりもしたけど、本当に救われるのは、あなたの方。

 

「風俗嬢でした」って告げるようになってから出会った人は、

本当の貴女を認めてくれる人ばかりでした。

 

 

一度離れた友人にも、ちゃんと理由を話します。

 

予想外でした。貴女の大切な親友は、

「貴女のことは全部分かっていたよ」って、泣きながら抱きしめてくれます。

 

振り切れた貴女は、もっともっと、言葉を紡ぐようになります。

 

貴女の流した血や涙は言葉になり、その言葉が、貴女を連れて、知らない場所に運んでいく。

いつのまにか言葉を紡ぐことが仕事になり、そしてその仕事が、貴女を大好きな人のもとへ運んでいきました。

 

人生って不思議だよね。本当に不思議だよ。

あの時、なんとなくで始めたTwitterが、私をこんなところにまで運んできたのだから。

 

言葉は無力だけれど、だけど紡げば力になる。

誰かに伝わり、そして自分を励ます。

 

いつのまにか自分を救おうとして書いた言葉が誰かを救い、そしてまた、私を救いました。

 

それからどうなったって?

 

いろんなことの始末がついて、「二度と抜けられない」と思っていた風俗からも足を洗い、

狭くて汚いマンションからも出て、貴女は今、広くて綺麗な部屋で、言葉を書きながら、

貴女を理解してくれる素敵な彼と、毎日幸せに過ごしています。

 

因みに夢も、叶いそう。これは内緒にしておくね。

 

 

何があるかなんて、わからないんです。

 

私の今の姿を見て

「どうせ今だけでしょ」って笑う人がいます。

「お前なんてどうせまた不幸になる」と、指をさす人がいます。

 

たしかにそう。

明日になったら、また辛いことが起こるかもしれない。

全てを失って、前と同じ状況になってしまうかもしれない。

 

幸せなんて不確かで、未来に「絶対」はない。

夢は敗れるもので、本当に欲しいものは、手に入らないものなんです。

 

だけど。

 

あの時、「もうこの先幸せなんてやってこない」と思っていた貴女に、

確かに幸せは、やってきました。

 

時々思っていたことがあります。

「こんなに辛いのに、どうして生きなければならないのだろう」

「幸せになれるかなんて分からないのに、なにを希望にして生きていけば良いのだろう」

 

その答えを言わせてください。

 

明日、何があるか分からないから生きるんです。

 

不幸が続くかもしれない、小さなしあわせがあるかもしれない。

もしかすると絶望に突き落とされるかもしれないし、その反対で、

とんでもない幸福が舞い降りるかもしれない。

 

「明日のことは分からない」

 

そう、「分からないこと」こそが、生きる希望なのです。

 

どんなに苦しくても、明日何があるかわからないから。

不安でも、苦しくても、先のことなんて分からないから。

だから、生きてみるんです。

 

もしかすると、ハッピーエンドなんて、やってこないのかもしれないけれど。

 

それでも私はあの日の私が、貴女が、想像もしなかった、できなかった場所に、

今、立っているから。

 

そして今、あの頃の私よりも、ずっと、幸せだから。

 

だから、高校生の頃の貴女。

きらめき、希望に満ちた貴女。

貴女には少し酷だけれど、どうかどうか、生きてください。

 

苦しいことが続くけど、どうか死なないでください。

そうすれば、貴女はきっと、大丈夫。

 

あとは必ず、私が貴女の人生をより良いものにします。

 

貴女の未来が、最後の最後にはなまるを付けてもらえるような人生になるように、

私ももっと、頑張ります。

 

「明日がどうなるか分からないから、もう少しだけ、生きていよう」

卒業、おめでとう。

yuzuka

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yuzuka

編集長。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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