仕事 考え方

風俗嬢だったことを、「隠すべき」と思っていたんだよね

2018年2月21日

考え方は変わる。

 

嫌いだったものを好きになったり、正しいと思っていたことが間違えていると気づいたり、

信念すら、小さなきっかけで、大きく揺れ動くことがある。

 

今回のコラムは、そんな小さなきっかけで、私の心の中の軸となっていた考え方が変わってしまったという事実を、伝えて行きたいと思う。

ずっとyuzukaのコラムを読んでくれていた人達にとっては、

「言っていることが違う」と思ってしまう記事になるかもしれないけれど、

今の私の正解を、ちゃんと伝えなければいけないと思ったから。

 

目次

「風俗嬢である事実は隠し通せ」と思っていた頃

私は今の彼と出会うまで、「風俗嬢である」という事実を隠し、数々の男性とお付き合いしてきた。

「ライターとして働いている」と説明しながら「いってきます」とパソコンを持って出かけ、ラブホテルに向かった。

何人もの男性と体を重ね、体中にタバコの煙を染み込ませて「ただいま」と言い、どんなに悲しい出来事があっても

「何にもなかったよ」と笑った。

 

隠すという行為が、苦しいことの方が多かった。

お店で無理矢理本番行為を強要をされた時や、体を縛られて痛いことをされた時。

全てを打ち明けて慰めてほしいなんて気持ちにもなったけれど、私は何も言わずにトイレにこもり、一人で泣いた。

「なにがあったの?」という彼らに、何も言わなかった。言えなかった。言えるはずがなかった。

 

いっそのこと、打ち明けてしまいたい。言って泣いて謝って、楽になりたい。

本当に愛している相手であればあるほど、嘘をつくことは、辛かった。

 

そこまで辛いのに、どうして打ち明けなかったのか。

 

だって、相手を傷つけてしまうから。

私が不特定多数の男性と体を重ねていた事実を知って、裸や下着姿の写真がネット中に散らばっていることを知って。

私を愛している相手が、傷つかないはずがないことを、私は知っていた。

 

言ったらどうなるだろう。私を罵って、罵倒して、彼らは私を、捨てただろうか。

いや、きっと捨てられない。だって彼らは私を愛していたから。

 

罪悪感で打ち明けてしまえば、きっと「それでも受け入れる」と、私を抱きしめたはずだ。

きっと嘘をついていたことも、許したに違いない。「辛かったね」と、私を気遣いすらするかもしれない。

 

だけどそこから先はどうなる?

 

「許す」ことは難しい。一度口に出してしまえば、もう相手を責めることなどできないのだから。

それでも何度も浮かんでくる苦しい葛藤と戦うのは、いつも「許す側」だ。

「許される側」よりも「許す側」が辛いことは、私が一番分かっていた。

 

私が楽になりたいという理由で打ち明けてしまえば、彼らは一生その事実に苦しむことになる。

忘れたくても忘れられない事実を、彼までもが抱えることになる。

「元風俗嬢」「汚い職業」「ヤリマンだ」「見たくない」「関わりたくない」

そんな刻印を押されるのは、私だけで十分なのに。

「元風俗嬢」「汚い職業」「ヤリマンだ」「見たくない」「関わりたくない」

そんな相手と付き合っている男だと、彼自身がそんな立場におかれてしまう。

 

そしていつしか、投げ出すだろう。

苦しくもがいた後に終わる恋は、とても醜い。

 

私にはそれが、耐えられなかった。

 

そしていつしか、私の中の正義は「嘘をつき、死ぬまで隠し通すこと」になった。

それが誠実であると、本気で思ったのだ。

私が嘘を付けば、私だけが苦しめば、嘘を突き通せば、彼は苦しまないですむ。

綺麗なまま、恋が続けられる。

綺麗事にも聞こえるけれど、本気でそう思っていた。だから言ったのだ。

 

風俗嬢であることは、死ぬまで隠し通しなさい」「それが、大事な人に対する誠意だよ」と。

 

「知っている人」と付き合うということ

時がたち、私は今の彼と出会った。

彼が出会ったのは、現役風俗嬢の肩書きで言葉を書く、ライターとしての私だった。

勿論、最初の出会いから「風俗嬢です」と名乗り、過去も全て話した。

 

だからこそ、彼とお付き合いするかもしれないという状況になった時、私はとっても迷った。

事実を知った彼と付き合うということは、私の貫いてきた正義に反することになるからだ。

 

彼は風俗嬢である私と付き合うことで、きっと苦しい思いをすることになるだろうと思った。

それが苦しかった。辞めておこうと、何度も何度も背を向けた。

 

だけど彼は、私の過去を全て知ったうえで、私を選んだ。

 

「君が辛い思いをして、それでもその仕事を選んだその日のことを、僕はすごいと思う。

それにその経験がなければ、今のあなたはいないでしょう。僕は、今のあなたが好きなんだよ。

全てなかったことにできるとしても、僕はそれを望まない。

僕は全てを経験した今の君と出会えて良かったと思うんだ。話してくれてありがとう。」

 

私達はお互いの全てを理解したうえで、「一緒にいよう」と、決断した。

 

伝えて傷つけることも、傷つくことも、やっぱり回避はできない

これだけ書いてしまえば、「たまたま良い人に出会えただけじゃない」って、きっとそう思うと思う。

そしてそれは、とても正しい。私は運が良かった。彼のように受け止めてくれる人は、きっと多くはない。

 

「風俗嬢だった」と告げることで、離れていく人は多いと思う。

受け入れてくれない相手の方が多い。悲しいけれどそれが現実だ。

 

愛していればいるほど、受け入れがたい事実というものがある。許せない事実というものがある。

受け入れてくれない誰かがいたとしても、それで貴女への愛が足りないだとか、器が小さいだとか。

そんなことを、はかることはできない。

事実を告げれば相手を傷つけるし、もしかすれば失うかもしれない。

 

だけど今の私が伝えたいのは、あの日思っていたことと、全くもって反対方向の言葉だ。

 

本当に愛している相手であれば、全ての事実を打ち明けなさい。

 

受け入れられない相手は、付き合ってはいけない相手なんだ

昔お付き合いしていた男性に、風俗嬢として働いていることがバレかけたことがある。

どうにか誤魔化して、どうにか丸め込んだあと、私は彼に、こう聞いた。

「もしも私が風俗嬢だったら、どうしてた?」

彼は少し悩んでから、こういった。

「風俗嬢だったことよりも、風俗嬢であることを隠して、ずっと嘘をついていたことが許せないと思う

その時は、「ああ、そうなんだ」とだけ言って、誤魔化しきれたことに安堵していたのだけれど、

今考えればあの言葉に、私の中のモヤモヤの全てが、集約されていたのだと思う。

 

「風俗嬢である」という事実を話すこと。

それはお互いにとって、きっと苦しい瞬間になるだろう。

だけど、言わなくてはならない。伝えなくてはならない。

 

そして、「それでも一緒にいよう」と言ってくれる相手としか、私達は一緒にいてはいけないのだ。

 

話したことで離れていく人や、軽蔑する人に、その事実を隠して、嘘をついて一緒にいるのは、

本当の愛だろうか?本当に相手のことを、考えているといえるだろうか?

 

いや、きっと言えない。

それでも一緒にいてくれるのかどうか。

その選択肢すら与えず、綺麗な偽りの自分だけを売り込み、

そばにいることが、正義だとは思えない。

 

彼が信じていた貴女が嘘だと知ったら、きっと大きく落胆するだろう。

愛していたぶんだけ、苦しく思うだろうし、裏切られたと思うはずだ。

 

「愛しているなら、彼のために嘘をつきなさい」

 

きっとあの頃の私は、「相手を傷つけたくない」なんて言って

綺麗事を並べながら、事実を告げることから、逃げていたのだと思う。

 

嘘をつけば、たしかに考えることや、拭い去れない過去を押し付けることはしなくて良いかもしれないけれど、

だけど「愛する人に嘘をつかれる」という、最も苦しい事実を、押し付けてしまうことになるのだ。

それが健全な愛かと言われれば、やっぱり今の私は、頷くことができないのである。

 

 

本当に愛しているのならば、しっかり目を見て打ち明けなくてはならない。

軽蔑されることも、目の前から去っていってしまうことも覚悟して。

相手を傷つけることも、覚悟して。

 

「それでも貴女といたい」と言ってもらえる相手と一緒に、自分の過去を背負っていきていく。

私達が背負わなくてはならないのは、嘘をつく苦悩ではなかった。

 

事実を告げることで、真剣に目を見て話してくれる人は、減ってしまうし、

その事実さえなければなんの問題もなく一緒にいられる相手とも、離れなくてはならない可能性がある。

一時的には受け入れてもらえても、相手をゆっくりと蝕み、最後には「さようなら」が、待っているかもしれない。

 

 

それでも私たちは、自分が決断した過去について、責任を持たなければならない。

そして事実を告げて、相手に正しい選択をしてもらわなくてはならない。

 

それでも、一緒にいてくれますか?」って。

本当の自分をさらけ出したうえで、選ぶ権利を与えなくてはならない。

 

 

隠していた方が、出会いも、お付き合いできる相手も、きっと多いかもしれないけれど。

全てを知ったうえで向かい合ってくれる人の方が、きっと大切で、貴女の人生に寄り添うべき相手だ。

 

そんな人を傷つける覚悟を持つのは苦しいけれど、でもやっぱりそれが、誠実ってことなのかもしれない。

 

「それでも私と、一緒にいてくれますか?」

 

本当の貴女を選んでくれる相手だけを選ぶ。

それは一見、自分のためのことのようにも思えるけれど、実は一番、相手のことを考えた、向き合い方なのかもしれない。

 

だって一番辛いのは、一番愛する人に嘘をつかれることだと思うから。

 

yuzuka

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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