「苦しみを想像しなさいよ」と、お母さんは言った。
痛そうな人を見て痛くなることが、この世界の中で最も大事にするべき正義だと教わった。
だから痛そうな人に「いたいね」って声をかけたし、一緒に悲しくなって、時々泣いた。
だけどぽんっと「世界」ってところに放り出されてみると、
無造作に振り回す刃物のような言葉で、人はあたかも簡単に、無造作に、私を傷つけた。
なんにも気にしていないそぶりで私の心に傷をつけ、泣く私を見て「弱い」と言った。
「酷い」といったら、「面倒臭い」と睨まれた。
「私は苦しい」といったら「だからなんだ」と唾を吐かれた。
呆然とする私に、「これが『普通』だ。お前はおかしい」と言って、彼らは笑った。
私は弱いのか、面倒くさいのか、どうしようもないのか。
少しづつそんな思いでいっぱいになって、
言葉も、手をのばすことさえも、できなくなっていった。
人に優しくすれば騙されて、人を信じれば裏切られて。そして泣いたら、「弱い」と言われる。
私の居場所はどこで、何を思い、どう行動すれば良いのだろう。
今日もこの苦しい「普通の世界」で、私は窒息しそうになりながら、どうにか生きている。
yuzuka
炎天下の車内に取り残された、子どもの話を思い浮かべるのよ。
日差しが透明のガラス越しに照りつけてきて、
身体の表面の水分を、蒸発させていくの。
暑くって熱くって、窓の外に「助けて」って言おうとするんだけど、
その声を出す、身を起こす体力すら持ち合わせていなくって。
芳香剤のにおいのするシートに横たわったまま、自分の身体の温度が上昇していく。
体温をあたえられる代わりに、ジリジリと体力が奪われていく。
苦しくて息がしづらくて、涙に変える水分を探しながら窓の外を見ると、
涼しげな顔をして日傘をさした、幸せそうな家族が横切っていくの。
こんなに近くにいるのに、別の人生を歩んでいるその人達。
「ああ、なんで。どうして」って。
それで、助けも呼ばないまま、呼べないまま、逃げ出すこともできないまま。
「誰か」を待つの。助けてくれる「誰か」を。誰の声も届かない、車の中で。
私の恋愛って、いつもそういう感じよ。
きっとたまたま助かったって、「どうして手をのばさなかったの?」って、責められる。
「自分の足で逃げられたでしょう?」って、呆れ顔を向けられる。きっとね。
だけど、幸せそうな人たちには、きっとわからない。
車の中で蒸発した水分と、照りつける日差しは、思ったよりも体力を奪うのよ。
「たすけて」って、言葉に出せないくらいにね。
yuzuka
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