ビールを飲みたくなる夜がある
今すぐ飲み込みたくて、コンビニから家までの道のりで
ぷしゅっと封をあける
流し込むのはいつものどす黒い思いだ。
それは自尊心のささくれだ
だれかにそがれつづけた自尊心が時々ささくれだって
棘のように脳を刺激する
ちくちくと傷んで気になってひっぺがそうとすると
うまくできなくて、ささくれは余計にひろがって、流血した
いつからこんなことにってため息をつくけど、
本当は「いつから」なんて明確にわかっていたし、
なんなら「誰によって」とか「どこで」とか、そういう細かい描写まで
本当はわかってる。わかってる、このささくれがなんでできたのか。
だけどそれをとりのぞいてあげられなかったのは、わかったまま傷つけたのは、
まぎれもない「わたし」だったんだ
ビールを飲みたくなる夜と同じように、
誰でもいいから抱きしめられてみたくなったり、セックスしてしまいたくなる夜もあった
それらは全て私にとって覚せい剤の代わりで、この棘が心を刺激する訪れるどうしようもない夜に
脳を麻痺させたくて行う、苦し紛れの言い訳みたいなものだったりする
ビールも、ちょうどいい男も、睡眠薬も、おんなじだ。
あの人は私に、「ありがとう」って言った。
「俺も」とか「俺は」とかじゃなくて、「ありがとう」って。
なんの変哲のない言葉だったけど、
私が勇気を持って伝えた2文字はなんの変哲も無い気持ちではないつもりだったから、
その言葉が帰って来たのが、苦しかった。
ねえ、この夜を「恋」と名付けよう。ねえ、どうだろう。
わからないけど、多分このささくれを作ったどうしようもない男を思い出すこのどうしようもない夜こそ、
多分、「恋」なのだと思う。
ぷしゅっとあけた缶から、ぬるいビールを口に含む。
初恋がレモンの味だとしたら、多分わたしたちの恋って、こんな味だ。
yuzuka
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