相手自身に興味を持たなきゃ、相手からも興味を持たれない
契約期間が終わり、のりちゃんは山小屋からいなくなった。
彼女がいなくなってからも、あー君はよくのりちゃんの話をする。それは、一途に見えなくもない。だけど、話の内容はやっぱり「オレ、なんでフラれたと思う？」など、自分に関することばかり。
……のりちゃんが今何してるかとか、どういう気持ちでいるかとか、気にならないのかな？
私は、好きな人ができると「あの人、今頃何してるのかな？」と思う。ご飯食べてるかな、まだ仕事かな、家でごろごろしてるのかな……そんなふうに相手の生活を想像してニヤニヤしたり、胸がギュッとなったりする。
そして、風邪をひいてなきゃいいな、つらい思いをしてなきゃいいな、なるべく幸せな気持ちでいるといいな、と思う。
あー君は、そんなふうに思うことがないのだろうか？
そう思って聞いてみると、「だってもうフラれたからLINEもできないし、デートにも誘えないし……」という謎の答えが返ってきた。
「いや、そういうことじゃなくて。のりちゃんの生活に思いを馳せたりはしないの？ のりちゃんが何してるかとか、どんな気持ちでいるかとか、気にならないの？」
「気になるよ。なんでオレじゃダメなのかとか、オレまだワンチャンあるのかとか」
……ダメだこりゃ。
あー君はブレない。フラれる前も後も、のりちゃんの生活や人生や思想の中の「オレに関する部分」にしか興味がない。
相手自身に興味を持たなきゃ、相手からも興味を持たれないと思うんだけど……。
まぁ、私の恋愛観が正しくてあー君が間違っている、ということはない。だから、あー君の恋愛観も否定はしない。
ただ、現実問題として、彼が誰かと幸せになるには今のままじゃ難しいと思う。
なんだかんだ言っても、彼は大切な友人だから幸せになってほしいんだよなぁ。
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吉玉サキ
北アルプスの山小屋勤務を経てライター・エッセイストに。好きな執筆ジャンルは季節労働と生きづらさ。だけどなぜか恋愛コラムを連載することに。お笑いが好き。
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