「あの頃めぐり」
[運賃箱と私]
ここからは、私がメディアで出た収益で初めて買った靴とともに、あの頃めぐりを行っていく。
いまだに「運賃箱」が設置されているこの駅は、私がまだ風俗嬢ではなかった頃に暮らしていたマンションの近くの、無人駅。
[運賃箱と私]
それなりに恋をして、それなりに仕事をして。
おそらく27年間の中で、一番人間らしい暮らしをしていたと思う。
看護師として、大好きな患者さんと向きあう毎日は、幸せそのものだった。
「このまま看護師をして、結婚して。子どもができたら外来勤務でも良いなあ」なんて思いながら、
この駅で電車を待っていた日を、昨日のことのように思い出す。
ふわっと、うなぎのタレの匂いが漂ってくる。この近くにはファミリーマンションがあって、
こうして電車を待っていると、いつも誰かの家の夕飯の香りに包まれるのだ。
「幸せかもしれないなあ」
特別でもないし、ありふれているし、きらめいてなんていないけど。
だけど確かに穏やかな普通の幸せが、あの頃の私には、あった。
[開発されてすっかり都会っぽくなった姫路駅と私]
場所はうつり、姫路駅。
関西に住んでいる方ならご存知かもしれないが、姫路駅には「魚町」という歓楽街がある。
私が住んでいたマンションからもタクシーで気軽に行けるその場所に、私はたびたび足を運んだ。
[みゆき通りの脇の路地]
この長い、廃れたとも栄えているとも言えない商店街を横目に進むと、その町の入り口がある。
あ、ジャンカラ!あれ、関東では「歌広場」なんだよね。
[関西では最もオーソドックスなカラオケ]
よく行ったなあ、看護師時代の先輩たちと、忘年会の打ち上げとかでさ。
[テナント募集が目立つ魚町]
久しぶりに足を運んだ昼間の魚町は、廃れているように思えた。
[魚町]
思えたけれど、これが昼間だからなのか、はたまたこの数年で寂れてしまったからなのかは、分からない。
[営業しているのかなあ]
[いくつのお店がまだ営業しているのだろう]
お酒を覚えたての私は、毎晩のようにこの街に通い、そして、仲間たちと笑っていた。
家を出て一人暮らしを始めた頃のあの開放感はなんたるや。
借金返済もまだ、看護師の給料だけでなんとか追いついていたこともあり、
私もアイドルが引退時によく使う「普通の女の子」を、満喫していたような気がする。
お金はないけれど、毎日が楽しかった。夜勤は辛かったけれど、体力だってあった。
仕事終わりに魚町で集合して、それぞれの看護観をぶつけあうのが、多分、青春だった。
yuzuka
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