リボ払いの借金120万円を抱えている、YouTuber兼ブロガーのピピピピピです。
かれこれ6年前、25歳の僕には、『社会不安障害を抱えた元風俗嬢かつ現ニュークラ嬢の生活保護受給者』である年上の彼女がいた。
好きだけど好きじゃない。
歪な恋心、複雑な両想いがそこにあった。
まさしく『共依存』という奴だ。
あの頃の僕は、劣悪な親子関係、窓なし3畳物件での貧困暮らし、バイト飛びまくり――とどめの一発として、死ぬほど好きだった女の子にフラれ、頭がおかしくなっていた。
そして人生に終止符を打つべく、ぶら下がり健康器具へクレモナロープを結ぶ練習をする日々だった。
写真が残っている理由は、憎しみだらけの地球に、怨念を注ぎ込んだ100万文字の遺書を残そうと考えていたからだ。
時を同じくして、彼女もまた、絶望していた。
心寂しい孤独の施設育ち、破滅願望、過呼吸――極めつけは、愛着障害ゆえの人間不信である。
自分が傷付くと分かっていても、『今すぐ愛されたい』を最優先してしまう。
そのあまり、ヘルスで働かされ、下心まみれの男に回され、都合の良い女にされてゆく。
こちらは、同棲中の交換日記である。
しつこいほどに、『幸せ』と『好き』を記録保存しなければ、彼女は心を保てなかったのだ。
小遣い稼ぎでキャバクラの体入へ行く際は、枕元のテーブルにこんな書き残しをしてくれた。
彼女は、愛情の繋がりを感じ続けないと、すぐに死んでしまう。
もはやその弱さは、すこぶる強かった。
誰も助けてあげられないほどの、恐るべき力を持った弱さであった。
とどのつまり、僕も彼女も、精神がバキバキに壊れていた。
そんなときに二人は出会った。
きっかけはストリートナンパである。
当時の僕は、紙コップで飯を食い、サラ金で散財し、孤独で気が狂っていた。
一刻も早く、どこかの誰かに、僕の窮状を訴えたかった。
命懸けでナンパした。魂を込めて声掛けした。
それはまるで不幸自慢のテロであった。
僕は正直、勇気も男気も行動力も決断力もない。
ただのボンクラ、不甲斐ない持たざる者だ。
それゆえ、時折ぶっ壊れて、なにかをやらかす。
ナチュラルハイ、全能感を迸らせて、街中を駆けずり回った。
「すいません、物凄いタイプなので声を掛けました」
119回くらい、同一単調なセリフを放った。
その日のうちに、彼女のマンションに転がり込んで、ケチャップLOVE文字入りのオムライスをご馳走になった。
それまでの僕は、薄暗い窓なし密閉空間で、チープなインスタント飯ばかりを食っていたから、手料理の美味しさはひとしおであった。
誇張抜きに、涙を流しながら平らげた。
口裂け女バリの笑顔がこぼれた。
踊り狂った。
そうなれば必然、愛に飢えていた彼女も、喜びを隠せなくなる。
こうして、『共依存』式の同棲生活がスタートした。
僕はいつまでも堕落するために……。
彼女はわかりやすい愛情を手に入れるために……。
『現実逃避』目的の薄っぺらい関係であった。
ヒモになった記念に撮影した1枚。
これだけに目をやると、健全で幸せな共同生活に見えるだろう。
しかしながら現実は、ぎとぎとの泥沼でしかなかった。
彼女には愛人のおっさんがいたのだ。
濃い化粧を施し、夜に出掛け朝に戻ってくると、数枚の万札をひらひらさせていた。
他人の金を部屋に散らして、「暴飲暴食しよっかー」「人格壊れるまで遊ぼー」「ファッキンアイデンティティ!」とへらへら笑って話した。
深夜ゆえ、隣人がクレームを入れてきた。
満面の笑みで無視した。
殺すぞパンピーのクソ野郎が。僕らの未来には何もねぇ-から。怖い物ねぇーぞ。地獄の血の池の底まで道連れにすんぞカスが。
そんな物騒なことを、二人でこそこそとつぶやいた。
僕はジェネリックのバイアグラを飲んで頭がズキズキし、彼女は精神科の薬によって情緒不安定だったのだ。
これは、デパートでご馳走をたらふく食べたときの写真である。
腹が満たされたら、上等な服屋に行き、ブランド物の洋服を物色した。
愛人→彼女→僕という流れで、金という紙切れが、凄まじい欲望の強風に吹き飛ばされ、左から右に飛んでいった。
頭のてっぺんから足の爪先まで、愛人の札束のおかげでオシャレを決め込めた。
社会不適合者の僕一人では、写真に写っているような、7万円のバッグ、4万円の革ジャン、1万円のパーカーといった高級極まるものは到底買えない。
晴れ渡る日には、噴水のある公園で、彼女をお姫様抱っこして、ぐるんぐるんと回転した。
目が回ってそのまま芝生に倒れ込んで、二人並んで熟睡することもあった。
頭のネジを外してベタベタし、現実からどこまでも逃げようとしていた。
そんな遊び狂いの途上で、ふと我に返ると、「やっぱり好きじゃない」「僕らは無理に楽しんでいる」という事実が近づいてきた。
彼女もそう感じるようになったらしく、「どうしたら幸せになれるんだろう」「好きがよく分からない」などと口走り始めた。
そして、至る所で過呼吸を起こすようになった。
駅構内でも、映画館でも、ショッピングモールでも。
そのたび警備員にお願いして、館内の休憩室に彼女を運び込み、横にして寝かせた。
手を繋いで、「大丈夫」とやわらかく問いかけると同時、「僕は今、なにをやっているのだろう?」と疑問が浮かぶようになった。
行き場所がないから、お金もないから……苦肉の策として付き合っているに過ぎない、そんな本音にぶち当たり、罪悪感がどっと沸いた。
耐えられなくて別れ話を持ち出したが、うやむやにされて終わるばかりだった。
僕は彼女に、彼女は僕にどっぷりと依存しており、簡単には外せない『共依存』という鎖で、がっちり繋がってしまっていた。
どんどん二人の心は壊れてゆく。
さながら躁と鬱のように、好きと嫌いの気持ちが交互にやって来るせいで、ねちねちとした歪んだ恋心を抱いてしまい、別れたいけれど別れたくないという矛盾を抱えていた。
そんなある日、事件が起きた。
真夜中の寝室、目が覚めると、隣に彼女がいなかった。
どうしてだか嫌な予感がした。
その直後、玄関の扉がぶち抜かれるような、乱暴な音が響き渡った。
「起きろこら」
身長185cmを優に超える男が乱入してきた。
どこかで見覚えがあると思ったら、彼女が写真で見せてくれた、愛人のおっさんであった。
続けざま、驚きの言葉が飛んできた。
「俺の婚約者に手を出して、どうなるか分かってんのか?」
つまり、彼女の愛人というのは、結婚するかもしれない彼氏だったのだ。
見るからに60代後半なのもあって、まさか本気で付き合っているとは思わなかった。
そのまま僕はマンションから叩き出され、ふらふらしていたら、危うくぞろ目ナンバーのセルシオにひき殺されそうになった。
「二度と俺の女に近寄るな。お前の人生変わるぞ」
殺意に満ちたおっさんが、車内から釘を刺してきた。
最低な時間である。
でも共依存を終わらせる最高のきっかけだ。
混乱状態であったものの僕は、奴がタバコを買いに行った隙を突き、彼女の手を掴んで逃げ出した。
そのままタクシーに乗り込んで、ラブホテル一直線にアクセルを吹かしてもらった。
そして、ダブルベッドで仰向けになりながら、ガチなトーンで別れ話を切り出した。
彼女のスマホを引っ掴んで、僕のLINEデータをブロックした。
すると、耳が痛くなるほど泣き叫び始めた。
マジでこいつが嫌い。
心の中でそう唱えながら、なぜか僕も涙が止まらなくなった。
この世から消えてくれ。
そう願いながらも、彼女がめちゃくちゃ愛しい存在に思えてきて嗚咽してしまった。
すなわち愛憎半ば――愛と憎しみが入り交じる、共依存の最も危険なゾーンに突入していたのだ。
太宰治など、心中自殺する人間の気持ちが分かった。
一生隣にいて欲しいほど大好きで、ぶっ殺したいほど大嫌い。
そんな異常心理になっていたからだ。
でも僕たちは、ギリギリのところで、踏みとどまることが出来た。
翌朝、お互いに吹っ切れた顔で解散した。
それから数日後、「最後に渡したい物がある」と言われて、十分だけ会った。
爽やかな心持ちで、笑顔のあるサヨナラをした。
彼女は、「いつか小さな花屋でアルバイトをして、ちょっとずつ生活保護から抜け出せるように頑張りたい」と嬉しそうに語っていた。
僕の人生ではじめて出来た彼女だったからこそ、行く道は違えど、素敵な幸せに巡り会ってほしいなーと心から願った。
これが本当に最後であった。
ピピピピピ
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