考え方

私の好きだった人が、夢を諦めました

2018年10月2日

「役者を、辞めようと思うんだ」

 

渋谷の、安い居酒屋。多分、ワタミ。

お洒落を気取った間接照明に照らされたその人は、切ない笑顔で、そういった。

BGMが、切り替わる。

小さな舞台小屋は真っ暗になって、それと同時に鳴り始めた音楽が、徐々に大音量になっていく。

ドキドキして、息を飲んで、何故か祈りたいような気持ちに駆られて、思わず目を閉じる。

 

周囲がパッと明るくなったと同時に目をあけると、何もなかったステージの上に、

「誰かの人生」が、出来上がっていた。まるでずっと前から、そこにあったかのように。

 

誰かの人生を、魅せる。そこから見える何かで、心を殴る。

それが、彼の作る「舞台」だった。

彼と出会って、もう8年が経っていた。

 

私が上京したての頃は、ワタミだって「渋谷の」を付ければ格好良い気がしていたし、

そこに座る彼の伸びっぱなしの髭も、穴の空いた柔軟剤の匂いがする色あせたTシャツも、

全部、全部、「ストイック」とか「男らしい」って気がして、気にならなかった。

 

気にならなかった。

気に、ならなかったけれど……。

だけどさ、もう、8年が経っていた。

 

私はその時には26歳で、彼に至っては、30歳を、超えていた。

私の方はと言えば、この8年で、行く店が変わり、着るものが変わり、会う人だって、変わった。

 

だけど彼が私を呼び出すのはいつもここで、状況も、見た目も、話の内容も。

何ひとつとして、変わらなかった。

 

目次 [非表示]

努力は破れた

彼の役者人生は、10年を超えていた。

病気が理由で格闘技を引退した後、「誰かの人生を変えたい」と役者の道を選んだ彼のその言葉は、

薄っぺらいけど本物で、決して破れも崩れもしなかった。

 

彼の芝居には、力があった、と、思う。

はじめて見た時から今に到るまで、私はずっと、役者としての彼の虜だった。

 

事実、私は他の誰でもない彼の芝居に、何度も何度も、人生を救われたのだ。

 

「この人の夢が叶わないのなら、誰の夢も叶わないのではないだろうか」

彼は、アルバイト以外の時間全てを芝居に費やして、努力という努力を、まるごと芝居に捧げているような人だった。

 

どれだけ小さな舞台でも、客が少ないと予想されていても、彼は「演じる」と決めれば、その役を、ひたすらに生きていた。

 

20キロ以上の体重のアップダウン、トレーニング。

「努力すれば、必ず結果はついてくる」そう言った彼の努力は、叶わなかった。

 

彼は私のヒーローだった

「風俗嬢をしているの」

打ち明けた私に、アルバイトで貯めた全財産を持ってくる。

精神薬でおかしくなって暴れる私を、一度も叱らず、「大丈夫だよ」って、頭を撫で続ける。

 

「死にたい」と泣いた時には、いつも「夢の話」をしてくれた。

 

「人生に正解なんてないんだよ。自分が選んだ道を、努力で正解に変えていくんだ」

苦しい時も、悲しい時も、彼はいつも私を舞台の世界に連れ出して、

それぞれの役を通して、人生を、生き方を教えてくれた。

 

彼はいつだって私のヒーローだった。

 

それなのに。

目の前に座って、夢を諦めようとする彼に、問いかけた。

 

「だって、夢は努力すれば叶うんでしょ?」

 

彼はいつだって私のヒーローだった。

「人生に正解なんてないんだよ。自分が選んだ道を、努力で正解に変えていくんだ」

そう言った。

 

そう言った彼が、その日、現実的な匂いのする居酒屋で、

「夢は叶わない」と言い切った。

 

弱音なんて一度も吐かなかった彼の、最初で最後の弱音だった。

 

舞台役者の現実

彼らの現実は、どうやら私が想像するよりも、遥かに泥臭かったらしい。

ひとつの舞台を作り上げるのに、安くても200万以上かかる経費を、チケットだけで、回収しなければならない。

それが「チケットノルマ」だ。

 

売れ残れば、自分自身が買い取らなくてはならなくなるから、恐ろしい。

それを達成するために、役者仲間同士でチケットを売買しあうことになる。

 

「前、見に来てもらったし、見に行かないといけないよな」

そんな感情で売買されるチケットによって入る客は、もちろん、ほとんどが彼らの身内となる。

 

誰かに知られなければ有名にはなれないし、有名になれなければ食べてはいけないのに、

チケットを売るために、「買ってほしい人」ではなく「買ってくれそうな人」に向けてだけ、宣伝するようになる。

 

勿論、ギャラは出ない。

むしろ、チケットノルマのせいで、マイナスになる。

 

舞台に出れば出るほど、お金がなくなり、バイトに入らなくてはいけなくなり、

芝居に使う時間がなくなり。そして夢からは、遠ざかっていく。

 

そうして、夢を諦めていくのだ。誰にも知られることなく。

 

仕組みを変えたい

「私が貴方の夢を叶えるための脚本を書く。実写化させて、次は私が貴方を引っ張り上げる」

私を引っ張りあげてくれた彼のためにかけた言葉が実現することはないまま、彼の役者生活は、終わった。

 

そこからずっと、私にできることは何だろうって、考えていた。

そして気づいた。

 

彼のためにできること、それは、「努力で夢に近づける仕組みを作ること」ではないだろうか。

格好良くて嘘をつかない彼の「努力で夢は叶う」という言葉を、嘘にしたくはない。

 

綺麗事だけど、100%とはいかないけれど、だけど「努力でも夢には近づける」って、

少しでも、現実に近づけたいじゃない。

 

だからまずは、この舞台を上演することを決めた。

木下半太さんとマッキー、そして、渋谷ニコルソンズさんという、強力な助っ人とともに。

(滅茶苦茶な提案に乗っかってくれた彼らには頭が上がりません)

 

チケットノルマ、ありません。借金、させません。ギャラ、出します。

そして、貴方達の芝居を、本当に見て欲しい人たちに、届ける。

 

「芝居を見たい」と思ってくれている誰かに、届ける。

「そんなの無理でしょ」って人の横っ面をひっぱたけるように、私はまだ、努力を続けてみたいから。

 

彼の夢を通して私の夢を叶えることが、

彼が目指していた「俺の芝居で誰かの人生を変えたい」って夢を実現させることになると思うから。

 

応募はこちらです

「なんでこの人、役者でもないのに、そんなに舞台がやりたいのん?」って疑問に答えたくて、

この記事を書きました。この記事を読んで「俺だって夢を叶えたい!」って思ってくれた方は、

 

どうかどうか応募してください!待ってるよ!!!

 

応募はこちら

yuzuka

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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