そういうことじゃなかったんだよ。
君がいじわるだったとか、重量が増えちゃったとか、そんなことじゃないんだよ。
そういう気持ちでかなしそうな視線を落としてみたわけなんかじゃなかった。そうじゃない。
「俺、なんかした?」って不機嫌になる君の不機嫌さが、また心に淀みを落とす。
悲しそうなことは悪いことなのだろうか。
だって、ディズニーのプリンセスも、月9のヒロインも。
ふっと遠くを見つめて悲しそうに笑ったるするじゃない。
そしたら王子様ないし好青年が「はっ」として「きゅん」としたりしてたと思うんだけどど。
ああ、そうか。私はお姫様でも、本田翼でもなかった。
ごはんを食べていて、ごはんつぶが口元についていないかきになった。
カニクリームパスタを食べながら、口角についたほんの少しのクリームを、ティッシュで何度も拭うから、いつもよりもずっと多くのティッシュを使った。枚数は覚えていない。
あなたといるときの私って、いつもそんな感じだった。
足がいたくても、使い古したスニーカーより、おろしたてのハイヒールを選んだし、それでできた靴づれは、絶対に気づかれないように笑った。トイレの便座にすわって、靴を脱いでいる時間が、唯一の解放だったりもした。
いつも怖がっていた。どうでも良いところで、怖がっていた。
だって私は、石原さとみじゃないから。
下品な食べ方をする女だって、嫌な気持ちにさせたらどうしようって思ったんだ。
女らしくないなって、思われたくなかった。
そういうことで「あーいらない」って返品されるかもしれないと思った。
「取り替えてよ。欠陥品だよ」って。
覆い隠して、包み隠して、必死で取り繕った。
そういうところだ。そういうところが嫌だった。
君とのそういう時間が、瞬間が、辛かった。
私は本来、もっと大雑把だったのだ。
生クリームをほっぺたたにいっぱいつけて、「とってよ」って、ほおを差し出してみたり、汚いスニーカーを履いて「かわいいでしょ」って笑えるくらいには、余裕があったのだ。
そういう「余裕」を、君の視線が絡め取っていく。
気にして身動き取れなくなった私に気づいたら、きっと君は、冷ややかに笑う。
私だけが私なの。私だから私なの。
そういえたら、何かが変わるのだろうか。
「唯一無二」になれるのだろうか?
笑おうと力を入れた口角が、きっと無意味に歪んだ。
yuzuka
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