今日も彼を怒らせた。
明日は久しぶりの二連休。良い雰囲気で朝を迎えたかったのに、現実はうまくいかない。
理由は些細なことだった。
いつもベッドの脇に置いてあるティッシュペーパーを、キッチンの掃除に使うのに移動させたまま、元に戻すのを忘れていたのだ。
「どうしていつもある場所にないんだ!」
もともと虫の居所が悪かった彼は、まくし立てるように怒鳴り始めた。
だけど、こちらにも言い分がある。
今日はいつもより時間をかけて好物のシチューを作った。喜ばせたい一心だった。
散らかっていた部屋も綺麗に整理整頓して、掃除機もかけた。
洗濯物も回して、タオルケットまで洗って掛け直した。
仕事が終わって帰ってきた時に、彼が機嫌良くご飯にありつけるよう、残業が終わって帰ってきて、化粧を落とす間もなく、彼が帰ってくるまでの時間に全てを終わらせたのだ。
彼も疲れているが、私だって疲れていた。
それくらいのことは、笑って許してくれても良いのに…
途端に悲しくなって涙を流す私に、彼は舌打ちをして、大声を出した。
「疲れて帰ってきてるのに、なんだその態度は。負のオーラを撒き散らすな!ここの主人は俺だ」
「でも方付けもしたの。少しくらい褒めてくれたっていいじゃない」
「散らかしたのはお前だろ!物は元あった場所に必ず返す!この部屋が散らかるのはお前の荷物が多いからだ!だいたい、洗い物だってあんなに貯まって!俺にやれというのか!」
部屋に散らかっているのは、彼の脱ぎっぱなしの洋服や、食べっぱなしのお菓子だったし、洗い物だって、いつから私がするのが当然になったのだろう…。
言いたいことはたくさんある。
でも、何を言い返しても無駄なのは分かっていた。
どんな理論的な意見も、冷静な話し合いも。
彼は怒鳴って一蹴する。力でねじ伏せるのだ。
1度怒り出すと手がつけられなくなる彼を収める方法はただひとつ。
自分が悪いと謝り、笑顔で奉仕することだった。それが一番穏便で、自分にも負担が少ない。
「ごめんね、気をつけるわ」
彼は無視を決め込んでいたが、しばらく周りの家事をこなしていると、何事もなかったかのようにテレビを見て笑っていた。
溜まった洗い物に手をつけた私は、こんな生活がいつまで続くのだろう。
と、流しっぱなしになっている蛇口から流れる水を見つめる。
出会ったころの優しい彼は、どこにいってしまったの?
綺麗な橋の上で「付き合ってください」と頭を下げてくれた彼は?
喧嘩をした時に「どうか俺と一緒にいてください。ごめんなさい」と泣いた彼は…
これじゃあ、まるで私が頭をさげて
付き合って「いただいて」いるみたいだ。
浮気も、理不尽な言葉も、暴言も。
弱いところもいやなところも、
全て許してきた。
それは、彼が私のことを必要としていると思っていたからだ。彼には、私しかいないと思っていたからだ。
彼は私を愛している。はずだった。
しかし、そんなに大切な相手に、こんな酷い態度を取るのだろうか?
他の女にうつつをぬかすのだろうか?
蛇口の水は流れ続ける。
「おい。水を出しっぱなしにするな。水道代を誰が払ってると思っている」
彼の声が聞こえる。
いや、違う。彼は私を愛してはいない。
ただ、所有物として「支配」したいだけなのである。
「モラス ハラスメント」という言葉をご存知だろうか?
「精神的暴力、嫌がらせ」という意味を持つ。
DVという略語で一般的な「ドメスティックバイオレンス」と違い、身体的な暴力は伴わない。
言葉や態度による暴力であり、これは極めて悪質だ。
近年、恋人や夫からモラハラを受ける被害者が、あとを絶たないという。
加害者は外面が良く、優しい仮面を被って近づいてくる。
「なんて良い人なの!」と親密になると、途端に仮面を外し、別人になった彼が顔を出す。
タチが悪いのは、常に仮面を外しっぱなしではないというところだ。
普段は温厚で頼りがいのある、「あの頃の彼」のままなのだ。
しかし、何か「小さなきっかけ」で火がつくと、まるで爆発を起こしたように、別人格が現れ、怒りをぶつけてくる。
そのせいで被害者は「相手が悪い」という自覚が乏しく、「自分のせいで相手を怒らせた」という洗脳状態にある。
そのうえ暴力を行わないため、体にも傷がつかず、外面は良いので、周りには「理想のパートナー」にすら移り、なかなか表沙汰にならない。
傷つけられた心は次第に麻痺して、死んでいく。鬱病を発症し、自殺に至るケースも少なくはない。
そのような相手だと分かりながら、どうして被害者は、きっぱり別れを告げないのであろうか?
強気な人であれば「そんな男、ごめんだわ。どうして好きでいられるのよ!」というような状態になっていても、被害者はどうしても離れられない。許そうと努力をしてしまうのである。
「私の悪いところを治せば、怒らない」
「いつもは優しいのだ。そうさせたのは私」
そんな間違った思い込みは、被害者のベクトルを、相手に向けさせてしまう。
この記事を読んで「ピン」ときた人に伝えたい。
モラハラは、貴女の努力では治らない。
何故なら、おかしいのは相手なのだから。
通常、相手に非がある場合、
話し合いをするなどして「治す努力」をしてもらい、相手に変わってもらう必要がある。
しかし、モラハラ野郎に、それは不可能なのである。
「俺の機嫌を損ねたお前が悪い」
「理不尽なことをいわせたお前が悪い」
「俺がこうなったのはお前の責任だ」
「だからお前が変われ」
本気でこんな考えの持ち主なのだから、変わる努力など出来るはずがない。モラハラ野郎に、話し合いは無意味なのである。
しかし恐らく、貴女が意を決して別れ話をすると
「いなくならないでくれ。俺が悪かった」と泣きつく可能性が高い。そこでほだされてはいけない。
彼は、貴女を愛していない。
いうならば「お気に入りのおもちゃが取られるのは嫌だ」という執着があるだけである。
支配下に置いていたはずの「所有物」が、自らの意思で自分から離れるのが我慢ならないのだ。
それを阻止するためであれば、涙も流すし、取り繕うための嘘もつく。「必ず俺が変わる」等と誓いもたてるだろう
しかし断言しよう。
彼は変わらない
許してしばらくすると、また同じ状況がやってくる。まるで忘れてしまったかのように、貴女は傷つけられることになる。
モラハラ野郎は平気で嘘をつく。
自分のためであれば、嘘など厭わない。そしてその嘘は脆く、分かりやすい嘘だ。
その場を取り繕うためのいい加減な嘘。
よって、すぐにボロが出る。
そしてもうひとつ、貴女が気づいていない事実がある。
この記事をみて「共感」しているとしたら、
貴女もすでに「彼を愛していない」可能性が高いという事実だ。
彼がいなくなるとどうして良いか分からない
私は彼のことだけを考えて生きてきたのに
モラハラは怖いけど、彼からは離れられない
その感情は、愛ではなく「トラウマティック・ボンディング」という支配下の元に生まれる感情である可能性が高い。
貴女は本当に彼を愛しているだろうか?
貴女が本当に好きだったのは、出会った頃の「偽物の彼」であり、「今の彼」ではないのでは?
「依存」「執着」は怖い。
そこから離れると、自分がどうなるのかすら想像ができない恐怖の夢を見させる。
しかし、それに屈してはいけない。
貴女には幸せになる権利がある。
あなたのその優しさを、悪用せずに心から喜んで、褒めてくれる人は必ず存在する。
あなたが泣けば抱きしめ、怒れば理由を聞いてくれる人がいる。
貴女を本当に愛してくれる人は、他にいるのだ。
さあ、幸せになるために立ち上がろう。
勇気を出して行動にうつすのだ。
「あなたは私にふさわしくないわ」
yuzuka
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