「悪かったよ」
何も無い部屋に、何も無い言葉が
ただ無造作に転がされた。
私はまた、いつもと変わらず
うっすらと作った笑顔で「いいよ」と答える。
本当は、本当は。
心臓のあたりがぎゅっと傷んで。
涙が鼻の奥まで染みてツンと痛くて。
今にも泣き出しそうだった。
「どうして?」とか「なんで?」とか
聞きたいことはたくさんあったし。
「ああじゃない」「こうじゃない」って
伝えたい言葉もたくさんあったけど。
今にも飛び出しそうな「そいつら」を
ぐっと閉じた口の中で、音もなく咀嚼して
乾いた唾で、ぐっと飲み込んだ。
だって私は綺麗じゃない。
あなたに文句を言えるほど
出来た女じゃないし、
よく考えてみたら、
私にも悪いところがあったのかもしれない。
テレビでは、ショートケーキのように
デコレーションされた「女」達の
「結婚生活」の特集が流されていた。
「なにをしても許してくれるから、
ついついワガママを言っちゃうの」
小さな口から、鈴のような声が零れる。
ほら、美しければ大切にされるんだ。
陶器のように真っ白な肌のその「女」達は
その肌に相応しく、
割れ物を扱うように大切にされる。
私の肌は透き通っていないし、
足もこんなにまっすぐ伸びてはいない。
目は、ものを見るには充分だけど、
顔を飾るには少し足りない大きさだし、
鼻だって無造作につけられた野菜みたいだ。
そう、私は美しくない。
「だから、大切にされないのね」
つい口から漏れた言葉にビクリとする。
「なんか言った?」
とっくに私に興味を無くした彼は、
携帯の画面に目を落としたまま、尋ねる。
「なんでもないよ」
私はまた、笑顔を作る。
yuzuka
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