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整形し放題の美容外科にいたのに、整形をしなかった理由

整形し放題の美容外科にいたのに、整形をしなかった理由

「整形なんてしなくても良いのに」と言った君は、確かに優しかった。

 

君と出会ってどれくらいの月日が流れたのかを数えてみると、

なんともまあ、8年がたっていた。「なんともまあ」がぴったりな月日だ、長い。

 

「整形なんてしなくても良いのに」と言った君とは、誰もが夢見るような、運命的な出会い方をした。

多分ドラマなんかなら、タララララ〜ってな具合にBGMが流れて、お茶の間のみんなは、

「絶対これ、付き合うやつやん」って、ある意味しらけた目で、そのシーンを眺めるかもしれない。

 

タイミング、ムード。その全てがマッチして、あの瞬間、これでもかというくらい

「これは運命ですよ」って、天使がラッパを吹き散らかしたのだ。

 

だけど私達の運命は、始まらなかった。

目一杯演出した運命は、ただの日常のまま、流れ去っていった。

拍子抜けだ。絶対にうまくいく状況で、うまくいかない。

 

そして私はその時、また呟いたのだ。

人生で何度も何度も何度も頭に過ぎったあのフレーズを、口に出して、呟いた。

 

「美人だったら」

 

めくるめく運命は、巻き起こらない。だって私は、ブスだから。

 

ブスはいつも、気づかれない

私が美人なら。

あの日の運命の出会いを、君は「運命だ」と、喜んで認識したはずだ。

だけど、そうじゃなかった。

 

私は道端に転がる不特定多数の石ころと同じように、ぽいっと、悪気なく蹴り飛ばされた。

この石がどこから来て、この場所にあるのがどれほど珍しいとか、そういうこと。

そういうことにも、一切の興味をもたれなかった。

 

当たり前だ。綺麗でなければ、拾い上げられることもないのだから。

 

私は地面の下の方から君を眺めながら、声をかけることにも躊躇して、

ただただ、自分自身の顔面を呪った。

美人なら、こんなチャンスを逃しやしない。絶対に、うまく掴んで見せるのに。

だけどどんなに思っても、願っても、私はブスのままだった。

 

毎朝目を覚まして鏡を見てみるけど、その事実は変わらなくて、その事実が変わらない限り、

めくるめく人生は、スタートしなかった。

 

食パンをくわえて誰かとぶつかっても舌打ちをされるだろう。

同じ本を同時に手にとっても、「すいません」で終わるだろうし、

感動の再会をはたしたところで「またみんなで飲もうよ」としか、誘われない。

 

だって私は、ブスだから。

「美人なら。美人になれば」

ずっとずっとふつふつと湧いていたその感情は、遂には私を飲み込んだ。

 

「整形しよう」

 

そうして私は、美容外科に転職した。

 

たどり着いたのは、「絶望」だった

私の勤める美容外科では、ほとんどのオペを、スタッフ割引の破格で受けることができた。(美容外科での仕事について

入職前からそれを知っていた私は、とにかくたくさんのオペの介助について、どの手術が一番綺麗になれるのか、安全なのか、把握しようと思っていた。

 

「整形すれば、綺麗になれる」

テレビに出ている女優も、雑誌に出ているモデルも。

みんなみんな、整形をしたから綺麗なんだ。

努力をしたら、綺麗になれる。あっち側の世界にいける。

 

私はそう思い込んで、その希望だけを頼りに、働いていた。

努力くらい、いくらだってしてやるさ。

 

腫れても血が出ても、この顔を切り刻んで幸せになれるのなら、どうだって良い。

 

だけど、働けば働くほど、美容整形についての知識がつけばつくほど、

オペを直接見れば見るほど、恐ろしい答えに導かれていった。

 

その答えこそが、「ブスは整形では綺麗になれない」という、絶望的な事実だったのだ。

 

整形は、リニューアルではなく、アップグレード

所謂安全な美容整形は、顔を変えるためではなく、顔を整えるためにあるのだと知った。

もとの骨格が綺麗な、ようは美人になる才能のある顔にメスを入れることで、隠れ美人が美人になる。

 

骨格は、建築で言えば土台の部分で、「ここが邪魔だから一本抜こう」なんて、そんな簡単な理屈は通用しないし、日本の技術で安全にできる施術なんて、表面上を塗装しなおしたり、ちょっとパーツを付け足したりするようなものばかりで、顔全体をリニューアルするためのオペは危険すぎて、国内ではやっていなかったり、推奨されていなかった。

 

だから、ブスは綺麗にならない。

ちょっと塗装を塗り直したり、おしゃれなドアノブに変えたところで、

ボロッボロの家の床がきしむのは、変わらない。

 

「綺麗になりたいんです」

綺麗になれると信じて、石原さとみの切り抜きを持ってきた女の子がいた。

先生は「今のままでも充分だ」と、とびきり分厚いオブラートで、

「君は石原さとみにはなれない」と言った。

 

皮膚を切り、脂肪を押し出し、血を流し、涙を流したって、

本物のブスが美人になれるケースなんて、なかった。

 

綺麗な先輩が言った。

「整形美人はブスよりも地位が高いけど、整形ブスって、ブスよりも惨めよね」

 

整形をすれば美人になれると思い込んでいた。

努力をすればあっち側にいけると思い込んでいた。

 

だけど実際はそうじゃなくって。

私が整形をしたって整形ブスに成り下がるだけで、もしもそうだとしたら、

ブスのままでいた方がずっと建設的なんだって。

 

私はそんな結論にたどり着いて、そして、夢見ていた「美人になること」を、やっと諦めた。

絶望だった。

 

努力しても綺麗にはなれない。

綺麗な人は、生まれつき勝ちが約束されているのだ。

 

こんな酷いことってあるか、嘘だろう。

 

だけど、ある。人生は、驚くほどに理不尽なのだ。

 

これがひとつめの、「私が整形をしなかった理由」だ。

 

整形は痛いし苦しい

もうひうとつは、シンプルな理由だ。

整形は苦しい。

 

よく、「どうせあの子、全身整形でしょ」なんて鼻で笑う奴がいるけれど、

全身整形にどれだけのお金と痛みが伴うか、ご存知なのであろうか。

 

彼女たちの口調は、あたかも整形がズル。

即ち、楽をして徳を得るための手段だとでも思っているような口ぶりだが、

それはなんの努力もしていない奴らだからこその言葉で、なんにもわかっちゃいない証拠だ。

 

静脈麻酔をしたあとの患者の姿を見た時の衝撃を、私は今でも忘れない。

オペの時、私たちはいつも、抑制帯という布の手錠を使い、患者の手と足をベッドに縛り付けていた。

 

もちろん麻酔で意識はない。だけど、体は痛みが分かるのだ。

だからメスを入れると、暴れる。「うおおお」と雄叫びをあげる患者もいる。

 

私たちは数人がかりで患者を抑えながら、いつもメスを入れていた。

血が流れ、腫れ、術部はフランケンシュタインのようにつぎはぎだらけになる。

体は痛いと暴れ、布かけはグチャグチャになった。

 

そんな時にふと、手術前のその人の顔や言葉を、思い出すのだ。

 

「ずっといじめられてきたんです」

「彼氏にブスって言われて」

「もっと可愛くならないと」

 

 

「どうしてそんなに痛い思いをしてまで整形をするの?」

なんとも無神経な言葉だ。

 

彼女たちが容姿のせいで、どれだけの不公平さを投げつけられてきたのか、

きっとその人たちは、知らないのだ。

 

変えるしかなかった。変えないときっと、苦しみに飲み込まれてしまうから。

だから、彼女たちはメスを入れ、血を流してまで、平等を買おうとしている。

 

これのどこがズルだというのだろう。

楽をしているというのだろう。

 

鼻の手術の後、喉に大量の出血が流れこみ、うまく息ができずに

ボコボコと血液に溺れながら涙を流す患者を見てきた私は、

彼女たちの努力をズルだという人間が、許せない。

 

そしてなによりも絶望的だったのは、それでも綺麗になれない人間がいることだ。

手術が終わり、綺麗になれなかった患者は、何度も何度もクリニックを訪れた。

 

何度も何度も体にメスを入れ、どんどん整形ブスになっていく。

医療ローンの支払いが滞り、カルテには赤字がついた。

もう随分と標準的な人間の顔からは逸脱しているのに、

「努力で美人にはなれない」と、認めることができないから。

 

何度も何度も顔を切り刻んだ。美人になりたくて。

 

私は彼女達に自分を重ねて、恐ろしくなっていた。

「多分、私もああなる」と思った。

これが、整形をしなかったふたつめの理由だ。

 

「美人だったら」の呪いの解き方

「整形なんてしなくても良いのに」と言った君は、私が美人なら、きっと恋人にしたのだろう。

私が美人だったら、もっと良い恋愛をして、安易に傷つけられたりすることだって、なかったのかもしれない。

 

「美人だったら」って、いつもいつも思ってきた。

どうしてこんなに不平等で、理不尽な思いをしなければならないのだと、怒りさえ覚えてきた。

 

だけどどうやら私は、そろそろその言い訳を辞めにして、

「ブスだけど」って、前向きに生きなければならないらしい。

いつまでも「美人だったら」を言い訳にして生きていくのは、あまりにも不恰好だ。

 

え?だけど、難しすぎない?

 

さて、私に残された最後の選択肢は、「土台ごと変えられてしまう海外でのちょっと危険で大掛かりな整形に手を出して顔をリニューアルしちゃう」か、「ブスを諦めて受け入れて行きていく」の究極の二択。

 

どっちを選ぶつもりかって?

それはまた今度。

 

yuzuka

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yuzuka

編集長。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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