考え方

発達障害をカミングアウトしてから起こったこと(北条かや)

いつから「アスペでしょ?」と言われることに慣れてしまったのだろう。

小さい頃から、よく物をなくす、他人を無意識のうちに怒らせてしまう、集団にうまく馴染めなかったという記憶はある。たまにギョッとされるほど空気の読めない発言をしてしまう。何もないところで転んだり、突拍子もない行動を取ったりするので「天然」とからかわれる。でもそれらはすべて、性格だと思っていた。

 

「アスペなんじゃない?」

という指摘が現実味を帯びてきたのは、25歳で就職してからだ。

 

単純な事務作業に意味を感じられず、覚えられない。上司が何を考えているのか分からず、目を見て話せない。

いつも背中越しにオフィスの誰かが見ているような、ぞわぞわした感覚があり業務に集中できない。根回しや飲み会での行動など、会社の曖昧なルールが理解できず孤立した。

 

「この人なら、孤立した自分を理解してくれるだろう」

と思って結婚した相手は、DV男だった。結婚生活は地獄。夫が命じた作業を正しく実行できずに怒鳴られ、何時間も罵倒された。

自分の何が相手をイラつかせるのか分からない。夫といる時間は向精神薬を飲んで明るく振る舞ったが、どれほど気を遣っても「お前は人の気持ちが分からないクズ」と怒鳴られ続けて心が割れた。

 

目次

発達障害の診断を受ける

「娘さんはアスペルガーです」

一昨年、うつ病から自殺未遂を起こしてしまい、入院した先で「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と診断された。

 

社会性の欠如や、対人関係の障害などを伴う「障害」だという。私がライターとして出版した書籍やブログなどを読み、数種のペーパーテストと心理検査を分析した医師は、同席した母にこう言った。

「娘さんは自閉症スペクトラム障害(ASD)です。アスペルガー症候群ともいいますが、よくあることですよ。ライターとしてやっていく分には問題ありません」

 

母は狼狽した。

「娘は自閉症なのですか? それはつまり障害者ということでしょうか……?娘には、確かに色々と問題はありますが、障害とまでは思えません」

 

彼女にとって、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という名は聞き慣れないものだったらしい。長年見てきた娘が、いきなり「障害者です」と告げられて驚かない方が難しい。

私はといえば、離婚した元夫からよく「アスペ」と言われていたことや、ネットで誹謗中傷される際に「アスペだ」とか「アスペを装ったメンヘラだ」などあれこれ言われていたので、少なくとも詐病ではなかったのだと、それだけを思った。あまり多くの感情は湧いてこなかった。

発達障害にも色々ある。私は同じく発達障害の一種である「注意欠如・多動性障害(ADHD)」や、読み書きや計算などが苦手な「学習障害(LD)」ではなかった。ただしADHDの友人には「自分と似ている」と言われるし、注意力が散漫だという自覚もある。が、あくまで医師の判断では「自閉症スペクトラム障害(ASD)」であった。

 

医師は診断結果の書かれた用紙を見ながら続ける。

「“自閉症”スペクトラム障害といっても、言葉の発達が遅れる自閉症とはまた違うタイプの、まあ自閉症ではあるんですけどね、なんと言ったら良いのか……1つの性格みたいなものだと思ってね、安心して下さい」

 

医者の仕事のひとつに「患者を安心させる」というものがあるが、主治医はそれがとても上手だった。

「この『AQ』という数値が、アスペかどうか診断する指標のひとつです。もっと数値が高い人もいますよ。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなんかは、かなり高いんじゃないかな。起業家や大学教授、医者なんかはアスペばっかりですよ」

 

と、発達障害といえば名前のあがる有名人をひととおり数え、障害を個性であると前向きに説明する。

母の表情も落ち着いてきた。

 

「こちらの『WAIS-Ⅲ』という検査結果を見ると、娘さんの知能水準は平均的です。ただ、得意不得意の差が非常に大きいんですよ。

『言語理解』や『処理速度』の点数はものすごく高くて、まあ文筆業だからね、知識は非常に豊富なんですが、『絵画配列』というテストの点数が軍を抜いて低いので、知識があっても文脈が読めない。

わかりやすい言葉でいうと、頭はいいけど空気が読めないという感じですね」

〈ウェイズIIIの診断結果〉

私の能力は、分野によって情けないほどの差があった。

「この、得意不得意を示すグラフが凸凹しているでしょう。得意不得意の差は、だいたい5くらいが一般的だけど、彼女は12だから出現率1.9%でかなり稀です。ここまで差が激しいのは珍しいかもしれませんね」

 

「アスペの人は能力が凸凹に発達しているので、社会に適応しづらいといわれます。彼女の鬱や摂食障害は、自閉症スペクトラム障害から派生している可能性もありますね。空気を読めずに人を怒らせた経験から、コミュニケーションが怖くなってしまっている可能性もある。

でも、あきらめずに『高い方の能力』を活かせば仕事復帰はできますよ。それには、人目を気にしすぎないことです」

 

私は相変わらずボーッとしていた。

そういえば、と医師は付け加える。

 

「僕も医者ですが、こだわりが強いし、関心分野を極めているからアスペだと思います(笑)。落ち込まないで、退院してからは人目を気にせず、ゴーイングマイウェイでやっていけばいいですよ」

このとき、医師は「アスペルガー」「アスペ」という言葉を使ったが、正しくは「自閉症スペクトラム障害(ASD)」というそうだ。ASDには社会的なコミュニケーション規則になじめない、臨機応変な対応ができないなどの特徴がある

そんな具合で、親子でなるほどと医師の説明を聴き、私は退院し、仕事に復帰した。

 

カミングアウトして、起こったこと

「発達障害と診断されたんですよ」

1年ほど経って、あるインタビューで私は発達障害であることを公表した。そのインタビューでは、今まで言ってこなかった本音や、炎上してしまうことについての思いなどを話したのだが、その流れで発達障害の件も話したのだ。

ついでに、鬱病と摂食障害でもう10年近く、薬を服用していることもカミングアウトした。

 

そうしたら、驚くほどたくさんの反応があった。

「あいつが発達障害ってウソだと思ってたけど、本当だったんだ(笑)」

と驚く声もあれば、インタビューで話した内容がおかしかったのか、「これはガチなやつ」「モンスター」「化け物を見ているよう」と形容する人もいた。

本音を話しただけなのに、発達障害ってそんなにおかしな存在なのだろうか。さすがに「モンスター」は言い過ぎだと感じたし、発達障害の人たちへの「風評被害」になるかもしれない。

 

予感は的中し、「あいつは発達障害ではない」「ファッションとして発達障害を利用している」と批判する声が出てきた。“本物の”発達障害を名乗るアカウントからはブロックされた。

「あいつとは同じカテゴリに入れられたくない」と思ったのだろうか。

 

まだ好意的なところでいえば、「この人は生きづらいだろうな」というコメントもあったが、私はそれらの声が飛び交うのを、ものすごく醒めた目で見ていたと思う。

私という人間は、カミングアウト前後で何ひとつとして変わっていないのに。

 

10代の頃からずっと苦しんできたし、精神疾患は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、常に「私」とともにあった。それなのに「発達障害です」とカミングアウトした途端、「この人はそういうことなんだ」と納得される。

医師の診断はこれほどまでに大きかったのか。私の生きづらさは、診断を受けて初めて正統化されるのか。

 

インタビュアーの吉田豪さんは、

「北条さんは上手くやっているタイプだと思われていたんですよ」

と言った。

 

いやいや、いや。これほど辛かった人生のどこが「上手くやっている」のだろう。

誰一人として、私がもともと抱えてきた生きづらさなど知らなかったし、知ろうともしなかったではないか。

 

これまでは発達障害や精神疾患の話を公にしていなかった。だからメディアに出る私を見て、「上手くやっている」と思う人がいたのは仕方ない。

その後、炎上して自殺未遂をした際に「演技だ」と言われたのも分かる。苦労知らずの人間が突然、メンタルヘルスを悪化させたように見えたら、詐病を疑いたくなるだろう。

 

 

私がずっと苦しんでいたことは誰も知らない。

コミュニケーションに難を抱える発達障害だなんて、自分自身でも気が付かなかった。挙句の果てに「上手くやっている」とは。自己認識と周囲からの認識にギャップがありすぎる。

 

自分の生きづらさと、周りからの「上手くやっている」という印象。

このギャップから、私のカミングアウトに対して「あんなの発達障害ではない」とか「軽度だ」と言う人の気持ちを想像してみた。

 

・ライターとしてやっていける人間が発達障害のはずはないし、軽度に違いない

・軽度のくせに発達障害を名乗られると、重度の深刻さが霞んでしまう

・もともと売れていたのに、炎上で売れなくなったら「発達障害です」とは言い訳じゃないか

 

私は人の感情を読み取ることが苦手なので、間違っているかもしれない。

が、今まで「上手くやっていると思われていた」ことで、カミングアウトもまた「世渡り手段のひとつ」と解釈された可能性はある。

 

「発達障害を免罪符にするな!」

と言う声は根強い。

 

ネットでは、「あんなヤツが発達障害の代表だと思われるのはイヤだ」と不快感を顕にしたり、「あんなのは発達障害ではない」と、医師でもないのに診断しあったりする風潮もあると聞く。

だが私は医師の診断に頼る以上に、どうやって正しく己の生きづらさを「本物」だと証明できるか分からなかった。

 

診断を公表したことで、私のメンタルヘルスはある種の「お墨付き」を得てしまう。それはむなしい。結局、医師に頼るほかなかったのだ。自分では何もできなかった。

ライターのくせに、生きづらさを伝える表現力は持ち合わせていなかった。もちろん、誰もこの苦悩を想像してはくれなかった。

 

また「免罪符」と言われるのだろうが、正直に告白する。こうした能のない人間でも何とかサバイブしていることを、私はカミングアウトによって分かってもらいたかったのだ。

今、メンタルヘルスの悪化をエッセイに綴ったとして、悪意をもって見ればすべて「演出」と言われてしまう。インターネットとはそういう場所で、自殺するまで分かってもらえない(と一時は絶望し、死のうとしていた)。

 

結局、カミングアウトするしかなかったと思う。

それがどんなに「嘘だ」とか「軽度のくせに」はたまた「キャラ作り」といわれようとも。

 

私には発達障害という、生きづらさを証明する概念がひとつ増えた。

自分が他人の目にどう映るのかも少しずつ分かってきた。今後はそれをどう主観的に解釈し、舵取りしていくかだ。まだ手探りだけれども、以前よりは少しだけ、トンネルの向こうに光が見える。

 

(文:北条かや)

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北条かや

石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど」

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