恋愛やセックスへの意欲には個人差がある。
すごく恋愛やセックスに意欲的な「肉食系」と呼ばれる人もいるし、そこまででもない「草食系」と呼ばれる人もいる。
現在の私はというと、そこまででもないのでいわゆる「草食系」に該当するのだろう。夫も同様だ。ふたりとも、若い頃は今より意欲的だったのだけど、わりと早い段階で関心が薄れてしまった。
……というわけで、私たち夫婦は恋愛やセックスへの関心が低いほうなのだけど、かといって、それらを否定しているわけではない。
恋をしている人を見れば「いいねぇ、素敵だねぇ」と思うし、恋愛相談をされれば真摯に話を聞く。エロトークになれば適当な相槌を打つし、下ネタも嫌いじゃない(ただし私はお笑い好きなので、笑いの観点でのジャッジは厳しめだ)。
基本的に、肉食系にも草食系にも、「別にいいじゃん」と思う。
だけどひとつだけ、「別にいいじゃん」とは言いがたいことがある。
それは、価値観に優劣をつけることだ。
たとえば、バブル世代に多いのだけど、恋愛に意欲的じゃない若者に対して
「最近の若い奴は草食系とか言って情けないね~、俺らの頃なんて……」
といった話をする人がいる。
そういうのを目にすると、
「肉食系が草食系よりも上だなんて、それはあんたの価値観だろ。他人にまで押しつけるなよ」
と思う。
目次
肉食系男子の幼なじみVS旅先で出会った草食系男子
2年前、夫と遠方のある県へ旅行に行った。その県には私の幼なじみの悠太(仮名)が住んでいて、3人で飲むことになった。ちなみに、夫も悠太とは何度か会ったことがあり、友人のような間柄だ。
その日は、悠太が私たちの泊まっているゲストハウスに泊まることになった。
地元民なのにわざわざゲストハウス泊まることないじゃん、と思ったが、彼はゲストハウスに集まる旅人たちと飲みたいと言う。私たちは居酒屋で軽く食事を済ませ、コンビニでお酒を買ってゲストハウスに戻った。
その日は私たちのほかに、若い男性が2人宿泊していた。だけど、リビングには誰もいない。靴はあるので、宿泊客はそれぞれ部屋にいるらしい。悠太は「つまんねーの」とあからさまにがっかりしていた。
3人で飲んでいると、ひとりの若者がリビングへやってきた。自然と「良かったら一緒に飲みませんか?」という流れになる。
彼は都内在住の25歳で、会社を辞めたばかりだという。転職先での勤務が始まるまでに数週間あるので、その間に国内をひとりで旅行しているそうだ。線が細く温和で、話し方も現代っ子っぽい。仮にA君としよう。
案の定、悠太はA君に「彼女いるの?」と聞いた。恋愛とセックスの話題が好きなのだ。
「はい、います」
A君はニコニコと答える。内心では「あー、このオッサン、酒の席で女の話ばっかりするタイプね、いるいるw」と思っていそうな感じ。
ちなみに、このときの悠太は35歳。25歳のA君からすれば、充分にオッサンだろう。
「イケメンだからモテるだろ? 彼女のほかにも遊んでんの?」
「いやぁ、彼女だけでいいです」
「またまた~、真面目ぶって~。20代なんて一晩に何回でもできるじゃん」
「あははっw(愛想笑い)そういうのめんどくさいんで。彼女だけでも自分の時間削られるじゃないですか。これ以上、自分の時間を削りたくないんですよね」
なんていうか、絵に描いたような「肉食系VS草食系」の構図だ。
世代でいうと、悠太はロスジェネでA君はゆとりなのだけど、なんだか「バブルVSゆとり」にも見える。
わかりやすい二項対立だ。
みんながみんな、あんたと同じくらい恋愛に意欲的なわけじゃない
私は悠太と同世代だ。
だけど、恋愛やセックスへの価値観はA君のほうが近い。
A君の言うとおり、恋愛は時間を使う。
相手がひとりでもけっこう使うのに、複数になったら自分の時間がなくなってしまう。私が不倫に興味がない理由の第一位も、「そんな時間があったら家でお笑いのDVDを見ていたいから」だ。
恋愛に意欲的な人は、いくら時間を使っても惜しくないのだろう。悠太はそのタイプで、妻子がいるけど若い女の子にも手を出している。
案の定、悠太はA君に
「いや、そうは言ってもさ、A君だっていろんな子とセックスしたいでしょ? 若いんだし」
と食い下がっている。
いやいやいや、性欲も恋愛への意欲も、個人差があるだろうよ。みんながみんな、自分と同じくらい意欲的である前提で話すなよ。
だけど、私はそれを言わなかった。
「言っても、悠太にはわからないだろうな」と思ったからだ。
彼は大人になるにつれて少しずつ、自分と異なる価値観を理解できなくなってきている。
実はこの日、A君が会話に加わる前から何度も「あ、私の言ってること全然伝わってないな」と感じる瞬間があった。
そんな瞬間が積み重なり、「なんかもう、伝えなくてもいいか」と思ってしまったのだ。
肉食系を見下す草食系
悠太が煙草を吸いに外に出たとき、A君に言った。
「ごめんね、悠太が絡んじゃって」
「ああいう人いますよねw 別に、嫌いじゃないですよ」
……悠太、めっちゃ見下されてるじゃん。
「ああいう人いますよね」と言うときはだいたい、「ああいう人」を下に見ている。A君はあきらかに、悠太の価値観を見下していた。
今まで、肉食系が草食系を見下す構図は見たことがあるけど、逆を目の当たりにしたのははじめてだ。
……うーん。
恋愛やセックスに意欲的な人も、そうじゃない人も、「どっちが上等」ってことはないよねぇ。
「肉食系と草食系に優劣はない」
個人的にはそう思う。
だけど……。
私自身はどうしてもA君の価値観に共感してしまうし、彼が悠太を見下す気持ちも、なんとなくわかってしまう。
誰のどんな価値観も「別にいいじゃん」と思っていたい
私は悠太の、「みんなが自分と同じくらい恋愛やセックスが好きなはず」と思い込んでいる感じが苦手だ。
恋愛やセックスに意欲的じゃない人間だっているんだよ、価値観を押しつけるなよ、と思う。
だけど、本当にそれだけだろうか?
私自身が無意識のうちに、悠太の肉食系な価値観を「低俗だな」と見下していたのではないか? だからあのとき、A君に共感したのでは?
私は、誰のどんな価値観も「別にいいじゃん」と思っていたい。
悠太の「恋愛とセックスが大好き!」な価値観も否定したくない。
今度、悠太が恋愛とセックスの話をしてきたら。
自分の中に見下す感情がないかどうか、きちんと観察してみようと思う。
吉玉サキ
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