考え方

なぜ、リアリティ番組は人を殺すのか

リアリティ番組についての「感想」。

どこまでが「感想」で、どこまでが「意見」で、どこからが「誹謗中傷」なのか。

 

そのボーダーラインは恐ろしいほど曖昧で、人によって違う。

 

今日、SNSに書き込まれた言葉によって、人が殺された。

また、殺された。

 

彼女はまだ22歳で、今まで殺された誰もが同じだったように、普通の若者だった。

 

彼女が出演しているリアリティ番組は、男女数人がおしゃれな自宅で共同生活をする様子を記録したもので、スタジオにはいつも「辛口コメンテーター」がいて、

その時々でターゲットになった住人について面白おかしく批判をするのが面白いと話題になり、人気を集めていた。

 

出演者の住むシェアハウスでは毎週わざとらしく様々な事件がおこり、

そのたびに見ている視聴者をドキドキさせたり、イライラさせたり、感情を揺さぶった。

 

関係のないところに住む、関係のない人たちなのに。

 

もしも本当に彼女彼らが目の前にいて、同じような行動をしたとしたら……。

なんて、どうしても考えてしまう。

 

そして考えたすえに湧き上がるドス黒い感情からできあがった

「直接言うのはさすがにね」と、ぐっと胸に飲み込むような言葉を、スタジオのコメンテーターたちが、代弁するように吐き出しているのを見ることで、

 

「わあ、やっぱりむかつくよね」「すっとした」

と、快感を得るのだ。

 

テレビの向こう側にいるコメンテーターとすでに共感した気になった彼らは、

そのモヤモヤやすっきり感を吐き出したくて、そしてもっと共感されたくて、ネットに書き込む。

 

「今日のあいつの行動、まじ無理なんだけど」

「私、あいつが嫌い。あなたは?」

「あいつがブサイクって思うの私だけ?」

 

たとえフォロワーが5人しかいないアカウントでも、同じ媒体にたくさん書き込まれれば、

それは大きな力になる。

 

人々が話せば話すほどその媒体でのトレンドとなり、今までその番組をしらなかった人の中にもその番組に興味を持つ人が出て、

「そんなにやばい奴がいるなら見てみよう」となるだろうから、何よりもの宣伝になる。

 

だから番組側は出演者の中にターゲットとなる「やばい人」がほしいし、「やばい人」を引き立たせるように編集するし、

コメンテーターはその編集が引き立つように、大衆の共感を呼ぶ悪口を「シュールで辛口な意見」として電波にのせるのだ。

 

その証拠にその番組では度々、「ターゲットとなった人物がネットの誹謗中傷を見て落ち込む様子」を録画して、放映していた。

ターゲットを作り、コメンテーターにターゲットを攻撃させて、それを見た大衆が同じように攻撃するように仕向ける。

 

そのうえ、その攻撃を受けて実際に落ち込むターゲットを攻撃した側に見せることで、快感まで覚えさせるわけだ。

 

こんなことを繰り返していれば、人々はもっと攻撃して、反応が見たくなるだろう。

この構図こそが、人を殺す「凶器」を作り出す吉凶だ。

 

目次

私の友人も、殺されかけた

私の友人に、北条かやさんという人がいる。

彼女はずいぶん前にインターネットから身を引いてしまったのだけど、今だからこそ、彼女の話をしたい。

 

なぜなら彼女もインターネットに殺されかけたうちの一人であり、彼女を殺そうとした人たちの中には

この騒動の中「誹謗中傷をするのは人殺しと同じだ」と、当たり前の意見を叫んでいる誰かもいるからだ。

 

彼女は作家で、一時期は大手事務所に所属してバラエティに出演するほど活躍していたのだけれど、

ネットでの誹謗中傷が原因で自殺未遂をしてから仕事が減り、

最終的には、仕事の要となっていたインターネットから、身を引くことを選んだ。

 

彼女は「もう辞めよう」と決意するその日まで誹謗中傷を受け続け、

仕事が決まるたびにクライアントに嫌がらせの電話までかけられるものだから、

せっかく決まった仕事がそのまま流れてしまうことも多かった。

 

「また仕事が流れちゃって……。」

悲しそうに笑う彼女を横目にどうすれば良いかわからないままただ慰めているうちに、

彼女は「北条かや」を辞めてしまった。

 

彼女はたしかに不器用だ。

純粋さゆえに、時々誰かを怒らせる。

 

だけど、現実の世界で彼女に直接きつい言葉を浴びせる人なんていない。

だってみんな、同じだから。

 

良いところがあって、悪いところがある。

悪いところがあっても、その人が精神的に追い詰められるまで叩いて良い理由になんてならない。

 

それは言葉による「暴力」で、「リンチ」だ。

 

そしてもちろん、現実世界で会う彼女は華奢で可愛くて人当たりが良い、ちょっと天然な「普通の人」だった。

叩く理由なんて、蔑む理由なんて、どこにもない。

 

私は彼女の優しくてちょっと抜けているところが大好きで、この歳になって二人でシングルベットに寝転がって、

朝まで笑いながら話していた時間を、今でも覚えている。

 

誰もが生身で彼女の存在を感じていれば、彼女を引っ叩いて傷つけてやろうだなんて、思わないはずだ。

だけどネットでは、その温度を感じることができない。

 

彼女の笑う声も、優しく笑った顔も、ちょっとずれている、愛嬌のある冗談も。

何も感じられなくて、何も知らないから、彼らにとって彼女は「画面の向こう側の他人」になる。

 

読者の人と直接会う機会があると、いつもこんな言葉を投げかけられる。

 

「yuzukaさんって、本当に存在したんですね!」

これは好意からくる言葉だけれど、同時にこの言葉は、誹謗中傷を書き込む誰かの心境にも、共通しているのではないかと思う。

 

想像ができないのだ。その言葉の先に、生身の人間がいることを。

だから、分からない。

 

あなたたちの「意見」が、どれだけ彼女に突き刺さって傷つけるのかを。

あなたたちの言葉が彼女にどんな表情をさせて、どんな傷を残すのかを。

 

彼女がリアルに存在する、自分と同じ人間なのだと忘れてしまうから、

彼女が完璧でなければ「叩いて良い理由」として認識し、徹底的に叩き続ける。

 

直接目を見ていないから、自分の顔は見られていないから、ちょっと行き過ぎた意見も

「正義」として振りかざすことができる。

 

そして実際に彼女が言い返したり、はたまた亡くなってしまったら。

きっとこう思うのだろう。

 

「本当に存在したんだ」

 

北条かやさん。

幸せなことに彼女は今も生きていて、私の友人だ。

 

私がもしも彼女にきつい言葉を浴びせた一人一人を当たっても、

彼女を殺そうとした人たちは、彼女に浴びせたきつい言葉たちは「正義」であり、

いじめや誹謗中傷には含まれないと主張すると思う。

 

彼女が自殺未遂をして、病院に入院して、何キロも痩せて拒食症になり、

そのうち誰のことも信用できなくなってたくさんの仕事を諦めたことを伝えても、

それでもなお、「これはいじめではない」というだろう。

 

その理由は多分、言葉を選ばずに言えば、彼女が死んでないからじゃないかなって思う。

多分彼女が死んでいたら、大衆の意見もひっくりかえっていたと思うんだ。

 

「死ぬほど責められることじゃないはずだ」

「いじめられた側が「いじめだ」と感じたら、それはいじめだ」

 

私が絶望しているのは、そこなんだ。

 

死ななきゃ手のひらを返してくれない世界って、どんな世界なんだよ。

死ななきゃみんなが見て見ぬふりするって、どんな地獄だよ。

 

死ぬまで「あの子はいい子だよ」って誰も言ってくれないって、なんなの。

これが悪質ないじめによる人殺し以外の、なんだっていうの?

 

私の友人がインターネットで叩かれていた最中、

彼女といる私に向かって「その人といると叩かれますよ」ってアドバイスしてきた汚い大人たちのことは、今でも全然信用していない。

 

私たちは、どうするべきなのか

人の死は、辛くて苦しい。

会ったことがなくても、勝手だけれど、少しだけ、気持ちが想像ができるから。

 

だけど「誹謗中傷はやめましょう」なんて言葉は何回も伝えてきたし、

それでも意味がないことを知っているから、もう言いたくない。

 

だってきっとそれをした本人達には、自覚なんてないから。

 

じゃあ何を言えば良いのか。

ずっと考えていたけれど、私には分からない。

 

そして私自身も何か許せない事件があったときには、言葉を選びながらも意見を述べてきたつもりで、

それが彼女を追い詰めた「加害者」と同じじゃないのかって言われたら、自分の中でも答えが出ないのだ。

 

「インターネットの世界に戻りたくない。現実の世界は優しいから」

悲しそうに笑う私の友人の横で、いまだに減らない自分自身への誹謗中傷を手のひらで眺めながら思う。

 

どこまでが「感想」で、どこまでが「意見」で、どこからが「誹謗中傷」なのか。

私たちはそろそろ、その答えを出さなくていけない、と。

 

yuzuka

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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