考え方

夫を選んだポイントは顔でも性格でもない

夫は変わっている、らしい。

「らしい」というのは、私は彼と11年一緒にいるのですっかり慣れてしまい、彼のことを客観視できないから。

だけど、周りの人たちは彼のことを変わっていると言う。まぁ、たしかにそうかもな、と思う。

 

彼はスピリチュアル・オカルト・都市伝説・陰謀論などに造詣が深く、だいたいいつも「カシオペアンチャネリングで言うとね……」「ラー文書には……」みたいな話をしている。

また、健康オタクで添加物にうるさい。

調理にも「米は炊飯ジャーではなく土鍋で炊く」「温め直すときはレンジを使わず鍋でふかす」といったこだわりがある。ぬか漬け、味噌も自作。鰹節はいちいち削り器で削る。

 

彼の興味は、そういったものごとと美術と自然にのみ向けられる。

他人や世俗には興味がない。

 

そのため一般常識に疎く、お金を稼ぐ能力がとても低い。美大を卒業しているけど、そのあとはだいたいフリーター。年収は平均よりずっと低いけど、そもそも平均がどのくらいかを知らないので、劣っているという自覚がないようだ。

今年から、彼は駆け出しのイラストレーターとなり、私は駆け出しのフリーライターとなった。お互いに全然稼げていないので貯金暮らしだ。

 

しかし、ガツガツ営業する私とは対照的に、彼はまったく焦らない。のん気なのだ。私は夢に関しては意外と体育会系なので、「やりたいことあんなら四の五の言わずに全力でやれよ!」とイライラする。

そんな彼だけど、周囲からの人望はめちゃくちゃ厚い。

 

穏やかで善良で、ちょっと信じられないくらいに利他的だからだろう。「いい人」というだけで、その他の「世間知らず」「甲斐性なし」などの欠点がすべて帳消しにされている。

そのため、私もよく「いい人と結婚したね」と言われてしまう。

 

……うん、いい人と結婚したけれど、苦労だらけですよ。

 

目次

夫を選んだポイントは顔でも性格でもなく……

こんなふうに夫のことを悪く言うと、「じゃあなんで結婚したの?」と言われることがある。

端的に言うと、相性が良かったからだ。

 

告白されてなんとなく付き合ってみたら意外と長続きし、5年が経った頃に「たぶんこの先もこの人と一緒に生きるんだろうなぁ」と確信した。

どうせ一緒に生きていくなら、籍を入れない理由もない。引越しやふたりで旅に出るタイミングもあり、自然な流れで結婚した。

 

だから「旦那さんを選んだポイントは顔と性格どっち?」などと聞かれると、「何でその二択なんだよ」と思う。

ポイントは顔でも性格でもなく、しいて言うなら、私と5年間も交際できたことだ。そんな男性は過去にいなかった。

 

それってつまり、相性が良いということだろう。

その一点において、彼は圧倒的だったのだ。

 

条件が良くても、自分に合わなければしかたない

婚活中の友人から「結婚相手は性格と収入のどちらで選ぶべきか?」といった相談をされることがある。

 

それに対して、

「仮に性格がよくて高収入なイケメンと出会えたとしても、相手が自分に合わなかったらどうしようもなくない?」

と答える。

 

人間って、合う・合わないがあると思うのだ。ペットボトルの本体とキャップのように、別々のメーカーでもだいたいちゃんと合うようにできている……というわけではない。

私の場合で言うと、20代の頃はずっとメンタルクリニックに通院していた。心の調子を崩すと、仕事や家事が困難になったり、寝込んだりすることがある。

 

だから必然的に、「妻が心の調子を崩して寝込んでいても愛想を尽かさない男性」としか結婚できない。

 

仮に、性格がよくて高収入なイケメンが私のことを好きになり、結婚したとしよう(ありえないけど)。

はじめのうちは、うまくいくかもしれない。問題は、私がメンタルの調子を崩して寝込んだときだ。

 

高収入イケメンは「こっちは仕事で疲れてるんだから家事くらいちゃんとやれよ」と言うかもしれない。

直接言わなくても、内心でそう思うかもしれない。その場合、高収入イケメンは私に対する不満を溜め込んでしまうだろう。それはやがて爆発し、関係を破綻させる。

 

また、高収入イケメンが繊細な人だった場合、弱っている私の影響を受けて、一緒になって弱ってしまうことがある。そうなったら夫婦で共倒れだ。

その点、我が夫は私がどれだけ寝込んでも気にしない。

 

「ありゃ。しかたないね~。寝てなさい、寝てなさい」と笑っている。

それは「優しさ」だけではない。彼はいい意味でドライで、パートナーである私に対しても「自分は自分、人は人」のスタンスなのだ。

 

だから、そもそも私に何かを期待することがないし、私が家事や仕事をしなくても不満に思わない。鈍感でタフなので、弱った私の影響を受けてしまうこともない。

その点においては、彼は私にぴったりのパートナーなのだ。

 

「ふつうの人があんたなんかと結婚するわけないでしょ!」と言われたこと

そんなわけで、私たち夫婦の相性は抜群だと思う。

だけど、正直なところ「高収入とは言わないから、せめてふつう程度に稼げる人と結婚したかった」と思ったこともある。

 

冗談混じりに母にそう言ったら、

「ふつうの人があんたなんかと結婚するわけないでしょ!」

と一刀両断された。

 

……たしかに。

私は中学で不登校になり、高校も中退している。専門学校を卒業後に働いた会社はすぐに辞めてしまったし、正規雇用で働いたことがほとんどない。

夫のことをあれこれ言っているけれど、私自身も社会不適合者なのだ。

 

しかも、メンタルが弱く、顔も性格も良いわけではない。

ふつうに稼げる人と出会ったところで、相手が私を選ぶ理由なんかひとつもないじゃないか……!

 

そう考えると、夫はなぜ私と結婚したのだろう?

本人に聞いてみると、「サキちゃんだからじゃない?」と言われた。

夫もきっと、私を選んだ明確な理由なんてないんだろうなぁ。

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吉玉サキ

北アルプスの山小屋勤務を経てライター・エッセイストに。好きな執筆ジャンルは季節労働と生きづらさ。だけどなぜか恋愛コラムを連載することに。お笑いが好き。

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