考え方

デパスとアモバン。

「どうしよう…」

辛くなりそうな前触れは、簡単に分かる。

 

心臓のあたりがきゅっと締め付けられて、1Rくらいしかない頭の中のスペースが、マイナスの言葉で埋め尽くされていく。

このままでは悲しくなる。また涙が止まらなくなる。

 

もう悲しくなんてなりたくないのに

立て直すまでの体力なんて残されてないのに

 

「助けて」

誰かに手を伸ばしたい。手を掴んで、また悲しみに引き摺られそうな私を、引き上げてほしい。

だけどそんな都合の良い「愛」なんて、そのへんには転がり落ちていない。

 

そんな時に私達が手を伸ばすのは、愛する人ではない。

 

カバンの中に手を伸ばす。

財布をあけると、カシャカシャと薄っぺらい銀色の感触が指先に触れる。

精神安定剤、睡眠導入剤……。

 

「最初は軽い気持ちでした」なんて、よく聞く言葉だ。

 

なんとなく眠れないとか、なんとなく気分が落ち込んでいるとか。

そういうよくある理由で、この薬を手にした。

 

ドキドキしながら、一錠飲んでみる。

溜め込んでいた渦が、曲線になって、心から放出されていくような多幸感に包まれる。

 

眠ろうとすれば浮かんでくる悲しみや苛立ちや汚い感情が、驚く程に浮かんでこない。

 

ふんわりとした感覚に包まれる。

次第に眠気がやってきて、久しぶりにぐっすりと眠れる。

最初は本当にそれだけだったはずだ。誰もが処方通りの正しい使い方をする。

しかし悲しみの度合いが大きければ大きいほど、頼るあてがなければないほど、手を伸ばす先は薬に偏っていく。

 

次第に「悲しいから薬を飲む」のではなく「悲しみたくないから薬を飲む」ようになる。

「眠れないから薬を飲む」のではなく「眠れないと思わないために」薬を飲むようになる。

 

飲み込んでもすぐに効かないのは分かっているのに、どうしても待てない。

こわい。効いていない気がする。早くしないとまた悲しみに飲み込まれる…早く、早く…。

 

一錠だったのが二錠になり三錠になり、そしてワンシート、ツーシート…。

 

そうして飲む量は増加の一途を辿り、処方されたマックスの量の薬は、あっというまになくなる。

だけど精神安易剤は、簡単には追加処方してもらえない。依存性が高いからだ。

 

そうして手を出すのが個人輸入だ。

医師の処方箋を貰わずにして、大量の安定剤を合法で手にすることが出来る唯一の手段。

 

よく考えてみれば、毎回同じことしか言わず、同じ薬しか出さないくせに待ち時間も長い病院に、

診察費を出して、診察時間を取られるなんて馬鹿げている…という考えに行き着くのだ。

 

個人輸入サイトを使えば、自分が好きなだけ、手元に置いておけるじゃないか…。

 

ドキドキしながら注文し、まるで割れ物のように梱包され、遠く彼方から輸入されてきた薬を見て安心する。

あぁ、これで悲しまなくて済む。笑っていられる。

 

目次

デパスとアモバンの個人輸入が規制される

本日付けで、「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」を一部改正し、新たに3物質(ゾピクロン・エチゾラム・フェナゼパム)(※1)を 第三種向精神薬(※2) として指定しました。(政令の施行は 本年10月14日 )今回の向精神薬指定により、向精神薬の総数は83物質になります。

新たに指定された 3物質のうち、2物質(ゾピクロン・エチゾラム)は、国内で医薬品(※3)として流通していますが、今般の指定に伴って規制と罰則が強化されることになります(※4、※5)。 (フェナゼパムは国内で医薬品としての流通はありませんが、国際条約上、規制対象とされたため規制しました。)

《引用 厚生労働省HP 平成28年9月14日》

「ついにか」そう思った。

数ある精神安定剤の中でも群を抜いてその依存者を虜にしていたのは、何を隠そうこのデパス(エチゾラム)と、アモバン(ゾピクロン)である。

 

即効性があるのに効果も高く、目に見える副作用は少ない。

そのうえ向精神薬として分類されていなかったがために、処方箋をもらうことなく個人での輸入が可能で、誰でも簡単かつ、大量に手に入った。

 

向精神薬という言葉は、脳に作用する薬という意味で使われる。

乱用や依存の危険が高いものが厚生労働省の向精神薬指定を受け、処方日数などに制限をかけられていたのだが、デパスとアモバンは長らく、この向精神薬指定を受けていなかった。

 

この薬が野放しになっていたせいで、何人の依存者を生んだのだろう。想像するだけでゾっとする。

 

どうして規制を受けなかったのか

そもそも日本は、向精神薬の危険性に対する認識が、今も昔も、ことごとく甘いのである。

 

例えばハルシオン

睡眠薬と言えばこの薬を思い浮かべる人も多いのではなかろうか。

 

実はこのハルシオンがなんの規制もなく処方され続けているのは、日本だけと言っても過言ではない。

イギリスやオランダでは販売も禁止されており、薬の消費実績自体、半分以上を、日本が占めている。

 

同じ様によく聞く薬物に、ロヒプノールがある。

TwitterをはじめとするSNSではこのロヒプノールの乱用自慢を頻繁に見かけていたが、実はアメリカでは医療用として承認されておらず、販売はおろか、持ち込みすら禁止されている。

違法薬物との同時使用により作用を増大させる目的で使われたり、強姦前に服用するなどの事件が相次いだのが理由であるが、日本ではとくに規制なく、今も処方され続けている。

 

さて、日本における向精神薬の危険性への認識の低さは理解はできたものの、上記に上げたハルシオンロヒプノールは、あくまでも向精神薬規制は受けていた。そのため、個人輸入を通しての乱用には繋がらなかったのだ。

 

さて、ではどうして、デパス(エチゾラム)は、つい最近まで、規制に至らなかったのか。

向精神薬の規制は、国際的に行われてきた。

麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約により、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬の多くは、ずっと昔から規制対象となっている。

 

ところが、規制されている薬物と同じレベルの作用を持つデパス(エチゾラム)は、長らく、規制対象にならなかった。

「安全度が高いから」ではない。

 

日本以外に販売している国が少ないため、国際的に見れば規制の優先度が低かったのだ。

日本独自に向精神薬指定を行うことはできたが、エチゾラムの依存性は過小評価され、長く放置され続けた。

その依存性を考えれば、すぐにでも規制されるべき薬剤であったのにも関わらず、である。

 

その認識の甘さのせいで、日本でのデパス(エチゾラム)の乱用率は、他の薬物と比較しても、群を抜いていった。

病院ではいい加減な診察で長期間処方がなされ、病院に行かないものは、個人輸入で大量に購入した。

みるみるうちにこの薬の魅力に取り憑かれ、そして依存していく。

 

デパスはメンヘラのブランドワードにすらなって、SNSでは、乱用自慢も盛んに行われるようになった。

 

そして遂に、ストップがかかった。それが、今回の規制である。

規制しないといけなかったものを規制せず、のらりくらりと来た結果、依存者が激増。

 

今更になってやばいと判断し、規制したわけである。

はっきり言って、遅すぎた。その頃にはもう既に、依存者で溢れかえっていたのだ。

 

行き場を無くした依存者達

私は日本のやらかした、このヘマを許せない。

「デパスの依存者が増えたから、デパスを規制して手に入らなくしましょう」

個人輸入で知識もなく乱用してしまった依存者達のデパスを、突然取り上げる。

 

では、すでにデパスにどっぷり依存している人達は、どうなるのだろうか。

そのあとの離脱症状も、悲しみの行き場も、なんにも考えちゃいない。

 

今回の規制で、麻薬及び向精神薬取締法施行規則が、一部改正された。

それにより、個人輸入などが禁じられ、以前と同じように手に入れようとする違反者には、罰則が科せられるようになった。

 

「法律違反にしたからね。これからは、君たちが悪いから。あとは知らないよ」というスタンスである。

向精神薬は、お菓子やジュースとは違う。

 

取り上げられて簡単に止められるものではない。

巷の違法薬物と同じように依存性があり、離脱症状がある。

 

取り上げられた者たちが、全員素直に診察に行けば問題はないだろう。

でも実際にはどうだろうか?

 

そもそも個人輸入で大量に購入して服用している者からすれば、正規の処方量では、意味が無いのだ。

薬漬けになったその体には量が足りず、離脱症状が起こる。

 

デパス(エチゾラム)が規制された直後から、大手SNSでは、それらの薬物の違法取引が行われるようになった。

隠語を使い、高値で売買しているのだ。

 

大手検索サイトの検索窓にデパスと打てば、予測ワードに売りますと表示される。

合法的に手に入らなくなり、今所持している者から、購入しようとしている者が増えているのだ。

これは勿論、薬機法を無視した犯罪だ。

 

また、代用という予測ワードもある。デパスに似た薬を探しているのだ。

「デパスが手に入らないのなら、同じように個人輸入で手に入る違う薬を…」

 

しかし、今の時点でデパスと同じ薬効のある都合の良い薬はなかなか存在しない。

突然手元から「救い」を取り上げられた者達は、インターネット上を今日も、彷徨っている。

 

危険薬物へのゲートドラッグとなる危険性

私は、行き場を無くすような薬の取りあげ方をすることで、精神安定剤がゲートドラッグとしての役割を果たすことを危惧している。

非合法で手に入れようとする人が増えるということは、非合法な場所にアクセスする人が増えるということだ。

 

もしもそこで、大麻や覚醒剤の誘惑がちらついたら…。

ただでさえ、救いを求めて彷徨っているのだ。手を伸ばす先が、そういった対象になる可能性を考えると、胸騒ぎがする。

 

これは決して、デパス(エチゾラム)やゾピクロンが規制されたことに対する批判ではない。

むしろ、遅すぎた。

問題は、そこで溢れた行き場のない者たちへの道しるべを提示していないことだ。

 

人々はただ、デパスやアモバンの成分に依存しているわけではない。

悲しいから。苦しいから。辛いから。だからデパスに手を伸ばしたのだ。

 

デパスを規制するだけでは、この問題は解決しない。

手を伸ばす場所が変わるだけだ。

 

行き場を無くして彷徨う人々に、正しい手を差し伸べる。

向精神薬の危険性や、正しい服用方法を発信する。

 

私達にできることはなんだろうか、と、いつも考える。

せめてこの記事にたどり着いた誰かが、何かを考えるきっかけになってほしい。

 

私達が薬に手を伸ばしてきた理由

イライラする、気持ちが落ち着かない。

そんな時にとるべき方法は、たくさん存在する。

マッサージ、旅行、彼氏との長電話もそうかもしれない。

 

リラックスする何かに身を委ねることによって、心を穏やかにする。

 

だけど私達がそれらよりも先に睡眠薬に頼ってきたのは、そういった多くの方法は、人やお金を巻き込むものだからだ。

それに何しろ、部屋から動く気力すら持ち合わせていない。

 

シャワーをして、髪の毛を巻いて、コンタクトをつけてお化粧をして洋服を着て……。

そんな難易度を越えられるのなら、とっくに健康的に走りまわっている。

 

だから、ベッドの上で、安らぎを求めようとした。

だけど私達は静かな部屋で自分の機嫌を取るのが、少しだけ、苦手だった。

そんな私達が手を伸ばすのが、銀色のシートだったのだ。

 

サプリメントという選択肢

ひとつの選択肢を提案する。

手をのばす先を、睡眠薬からサプリメントに変えてみるというものだ。

 

このサプリは若干胡散臭い人が作っていそうな雰囲気を漂わせているが、

セントジョーンズワートの成分が、300mgも含まれている。

 

セントジョーンズワートとはなんぞやという話であるが、簡単に言うと、セイヨウオトギリというお花の抽出物である。

ドイツをはじめとするいくつかの国では、軽度のうつに対して従来の抗うつ薬より広く処方されているし、欧州では、伝統的医薬品として流通している。要は「薬」として認定を受けているわけ。

だけど日本においては未だ食品扱いであり、ハーブとして市販されている。

(他の薬物と相互作用を起こしやすいという厚生労働省からの注意喚起あり)

 

「たかが食品なんだから、サプリには効果がない」と思われがちだが、

私はセントジョーンズワートについてだけ、少しだけ、効果を信頼している。

実際にデパスの規制がかかった時、私もその成分が含まれるサプリを、お守り代わりに服用していたからだ。

 

ただし、有識者の方々の効果の見方は研究によってまちまちで、軽症から中等症のうつに対して有効で、そのうえ従来の抗うつ薬よりも副作用が少ないと書かれているイギリスの診療ガイドラインがある一方で、

アメリカのとある研究では、プラセボ効果(飲んだことに満足して気持ちが落ち着く)以上の薬効は見られないなんて言われていたりもする。

簡単に言えば、「効かないという人もいれば、効くという人もいる」ということである。

 

だから「必ず心が落ち着くよ!」なんてことは大声では言えないけれど、

いつもの生活にお守り代わりに取り入れてみれば、少しだけ、安心するんじゃないかなって、そう思う。

 

「デパス 代用」でこの記事にたどり着いた誰かが、選択肢を知らずに危ない薬を手にするくらいなら、

こういったサプリを、生活に取り入れてみてほしいのだ。

 

ちなみに今回紹介したリラクミンというアプリには、セントジョーンズワート以外にも、

様々な成分がたっぷりと含まれている。

サプリメントの詳細へ

 

 

本当は何にも頼らず、笑顔でいられる生活を手に入れるのが一番だけど、

そこにたどり着くには、少し時間がかかることの方が多いから。

 

サプリじゃなくても良い。

あなたの手を伸ばす先が、「危険」に溢れた場所でありませんように。

私はここから、それだけを祈っている。

 

yuzuka

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yuzuka

作家、コラムニスト。元精神科、美容整形外科の看護師で、風俗嬢の経験もある。実体験や、それで得た知識をもとに綴るtwitterやnoteが話題を呼び、多数メディアにコラムを寄稿したのち、peek a booを立ち上げる。ズボラで絵が下手。Twitterでは時々毒を吐き、ぷち炎上する。美人に弱い。

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